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「――――――」



 放たれるその畏怖いふに、神が一時呼吸を忘れる。

 大量の冷や汗と共にようやく息を吐き出した時――――キュロスはようやくそれが、その巨大な巨大な機神きしんの、ほんの一部でしかないことに気が付いた。



 観客達が天井を振り仰ぐ。

 光魔法ひかりまほうと大量の煙によって映し出された、ビージ・バディルオンの――――メイクはん衣裳いしょう班の技術のすいにより、最早もはや彼とは思えぬおぞましい機械仕掛けの魔術機構まじゅつきこうである――――姿。

 そんな、町など一飲ひとのみにしてしまいそうなその圧倒的存在をも、ゼタンは何の感慨も無さげに淡々と見上げ、そしてキュロスと目を合わせた。



「『ディオデラ』。そう名付けた」

「……ディオデラ?」

「人間よりも、少しだけ時間をかけた。だがそれに見合う働きをするよう、力は込めたぞ。これには何もない。人間のような、完璧を求めたあれこれ・・・・の細工など一切していない。ただ壊す。ただ殺す。ただ飲み込む。使い方を誤れば、神さえ殺してしまえる」

「!?…………ゼタン。君は……お前は今、何を考えている?」

「? 何も」

「ふざけるな。『神を殺せる』だと? 一体何を思えば、そのようなとんでもない言葉が口をくというのだ。それは……我々に殺意を抱いた者にしか出ぬ言葉だぞッ!!!」

「――――――」



 呵々かか、と一柱ひとりの神が笑う。

 その目には、確かに何の意志も宿ってなどいない。



 そのように、見える。



「……それが今のお前の望みなのか、ゼタン」

「――望み」

「そうだっ。ゼタン、お前は――お前のそれは『欲望』だッ。お前がみ嫌い、なんとか取り除こうとここまでやってきた――――人間だけが持つ醜悪しゅうあくな望みだッ!! お前は人間と同じく堕落だらくしたのだ、ゼタンッッ!!!」



 機神が、身動みじろぎした。



「ッッッ!!!!!」



 それだけで――――キュロスは、魔波に当てられ尻餅しりもちを付いてしまう。



 いな

 こいつは、今――



「――――ゼタン。こいつは……お前は今、私を殺そうとしたのか・・・・・・・・・・?」

「……はは。そんなことをする理由は無いよ」

「…………理由があれば、躊躇ためらわぬと申すか?」

「何を言う。君こそ人間に感化されてはいないか? キュロスよ」



 ゼタンが、虚ろな目でキュロスを見る。



「躊躇わぬも何も、我々はそのように・・・・・望まれて創られた者だ。わたしは望まれた使命を全うする――――究竟くきょう意志いしに従うのみだよ」



 機神が、関節をきしませ動き始める。



 その音はさながら、星の亀裂きれつごと轟音ごうおんだった。




◆     ◆




 戦いはそれ以後も、何事も無かったかのように続いていく。

 決着の見えない戦いの中、それでも前を向けと戦士たちを鼓舞するカンデュオ。

 彼に相対したのは、なかおどされるようにして戦場に立つ、キュロスであった。



「……ハァ。ハァ、ハァ……!!」

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