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 魔法を信じ、一大勢力で戦いを挑んだ人間達。

 しかし神々は、彼らに魔法の粋など一片たりとも見せてはいなかったのだ。



 人間が魔法を行使したことに驚きこそすれ――神と十の力で渡り合い、歓喜した人間達は、その直後神が見せた百の力で絶望のふちに叩き落とされ、無残に敗走したのである。



 そしてまた、それが神の力の限界であるとは到底思われなかった。



「……今ならまだ、間に合うんじゃないか?」

「間に合う?」

「交渉しよう! 神々が少なからず僕らの底力を恐れている今しか、対等に近い条件で戦いを終わらせる方法は――」

「ハッ、神が私らと同じ高さの椅子に座るってか?……夢みたいなこと言ってんじゃねーぞカンデュオ! あいつらは私らを家畜かちくとしか見てない。ムカつくもんな、下に見てた連中に対等なカオされるのはな!!」

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「これまで通りさ、簡単な話だ!! どちらかが。全滅するまで戦い続ける。それだけのことだよ!」

「…………!」

「そうだろう、皆ァ!」



 クヲンが皆をあおり、衆目がその叫びに同調する。



「親兄弟を、友人恋人を殺された痛みを、私らは決して忘れん!! たとえこの身が亡びることになろうとも、奴らを道連れに世を去れるなら本望だ!!」

『オオォ――――!!!』

「…………不毛だ」



 つぶやき消えたカンデュオの言葉が聞こえたのは、タタリタら三人だけだった。

 皆が寝静まってなお、三人は立ち尽くしていた。



「…………力よ」

「力?」

「結局はそこ。私達の魔法の力が、神に圧倒的におとること」

「でも、力が拮抗きっこうした場面も何度もあったと思う。そう気を落とさないで、タタリタ」

「でも結局最後には負けた! これじゃまったく――」

「魔法、だったんだろうか」



 ポツリ、とクローネがつぶやく。

 言葉の意味を理解できず、タタリタが眉根を寄せた。



「……どういう意味?」

「確かに、最初は魔法だったと思うよ。神の使っていたものは。ただ、最後に使ったもの……あれは、魔法じゃなかったんじゃないかと俺は思う」

「魔法じゃなかったって……どういうこと? どう見たってあれは」

「俺は剣士だ。皆より少し近くで、あれ・・を見ていた。だからわかる。あれは確かに、俺達が授けられた魔法とは一線を画す力だった。感じる魔波まはの質が違った」

「ま、魔法じゃないっていうなら……何だったの?」

「解らない。でも――魔法より強い力であるのは、間違いないと思う」



 沈黙。

 タタリタは、クローネの目を見つめたままだ。



「……それとね。私、ずっと考えていたことがあるんだけど」

「ユニア?」

「今のままじゃ、到底とうてい敵わないわけだよね。神々に。でも、私達がたった一つだけ、神に勝っている部分がある」

「勝っている部分?」

「人数。相手はたった三人、でも私達は大勢いる。それを上手く利用できる、策がある」

「ま……まさかユニア、あなた玉砕覚悟の総攻撃とか言い出さないわよね」

「そう」

「え?!?」

「でも、玉砕はしない。上手くいけば、私達は……魔法で神に勝つことも出来る、と思う」

「ま……魔法で神に?」

「……聞かせてくれ、ユニア。一体どんな作戦なんだ、それは」



 クローネが問う。

 ユニアは一瞬くちびるを噛み、――やがて答えた。

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