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◆     ◆




 エリダ・ボルテールとパフィラ・ロックコールは、周囲の野次馬を蹴飛けとばさん勢いで人混みをこじ開け、友人の下へとたどり着いた。



「! エリダ、パフィラ」

「リアッ! シータが誰かに襲われたって本当なの!?」

「うん。今、医務室いむしつの中に」

「シータっ」

「っ、ダメよパフィラ、今は入れない」

「えーっ!! なんで!!」

「入れてもらえないの」

「……入れてもらえない? ちょっと待って、まさかシータのケガってそんな」

「それは違う。安心していいと思う」

「どう違うってのよ!」

「くってかからないの、エリダ。……リアが聞いたのよ、シータを見つけた先生に。目立った傷は見つけられなかったって」

「……あ、」

「……だから安心して。エリダ。不安になったよね」



 リアがエリダの片手を取り、そうなだめる。



「でもなんで入れないのー!?」

「……今、中にね。義勇兵コースとアルクス、先生が集まってみたいなのよ」

「……何、その物騒ぶっそう過ぎる連中」



 エリダがかわいた声を漏らす。

 システィーナ・チェーンリセンダは苦い顔でわずかにうつむいた。



「……それにね。ここに運び込まれてきたの、シータだけじゃないの」

「……少し聞いたわ。オーダーガードも、いたんでしょ」

「それだけじゃないの」

「……は?」




◆     ◆




 医務室内は静まり返っていた。

 針をきざむ時計の音だけが、やけに五月蠅うるさく場を埋めている。



 深夜と言うには少し早い、前夜祭からしばらく経った夜。

 明らかに多すぎる人数が、医務室という少人数スペースに詰め込まれていた。

 一人のアルクス、風紀委員、そして――義勇兵ぎゆううへいコースの面々。

 ベッドに寝かされているのはシータ・メルディネス、テインツ・オーダーガード――総勢十名にのぼる、学生達だ。

 テインツの前で、背後からわかほどに肩を震わせるビージ・バディルオン、その横にはチェニク・セイントーン。

 俺の横には天瀬愛依あませめい――もとい、リリスティア・キスキル。医務室の入り口であってから今まで、一緒に運び込まれた犠牲者ぎせいしゃの確認を行っていた。



「……無いね。目立った外傷がいしょうは、何も」

「……ああ」

「では、説明してもらおう。唯一ゆいいつ目立った外傷を負って生存した、ヴィエルナ・キース」



 武骨ぶこつなゴーグルをつけた藍色あいいろのローブ――プレジアの義勇兵「アルクス」の隊員、フェイリー・レットラッシュが告げる。

 言葉の先には、ローブをぎ、ハイネックのタンクトップ姿のヴィエルナ・キース。横にはロハザー・ハイエイト。

 彼女は魔女リセル――こちらももとい、校医こういパーチェ・リコリスによる治療を受けたところだった。

 テーピングが施されている箇所かしょの近くに、傷をおおう包帯が巻かれる。



「ホントならすぐに完治できる傷なんだけど。ごめんね」



 パーチェが申し訳なさそうに、ヴィエルナの傷を見つめる。

 腕の切り傷は完治されないまま、止血ののちに包帯だけが巻かれている。

 魔力の残りから襲撃者を割り出すために、致し方の無い処置なのだろう。



「いえ。情報に、なるなら」

「順を追って説明してくれるか。襲われて生き残った者が君だけである以上、気味の情報だけが頼りなんだ」

「はい」



 ヴィエルナがフェイリーから視線を外し、視線を下げて遠くを見る。

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