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「な――」



 狼狽ろうばいを見せたのはノジオスも同じことだった。

 片手で握った、刃先付近に穴の開いた魔装大剣まそうたいけんパルベルツ、そしてそれを支える背筋ですべてを受け止めた兵士長ガイツ・バルトビアは、体の力みをゆっくりと解きながらマリスタを見る。



「熱くなって大局を見失うな。アルテアス」

「た。大局って――わっ」

「ずわァははっ! 拳一発止めた程度でなァにを油断――」

『うおあああぁぁッッ!!!』



 裂帛れっぱくを上げ、戦闘態勢を整えたアルクスらが上級魔法と共に「ディオデラ」へ突進、ガイツとマリスタから遠ざける。

 背の圧力が無くなったガイツはこれまで止めていた呼吸を再開し、剣を杖代わりにして体勢を保った。



「兵士長!」

「我らも奴らも王女の居場所を知らない、ならば条件は同じだ。下らんことで冷静さを失うな!」

「――冷静、」

「思考を止めるな戦い続けろ、あらがうことを諦めるなッ! まだ希望は残されている、出来ることは残されている! だから落ち着け、マリスタ・アルテアス!」

「――――、はい。はいっ」

「不安に圧し潰されているのはお前だけではない。義勇兵コースの数人が既に戦意を失いかけている。戦いはアルクスに任せろ。一人でも多くを奮い立たせるんだ!」

「わ……分かりましたっ!」

「よし――――これより戦闘に加わる! メテア、お前は『戦力外』の保護と治療に当たれ! 他の者は敵戦力を分析しつつ出来るだけ戦力外から遠ざけろ!」

『了解!』



 口元の魔法陣を消したガイツが魔装剣を携え、屋敷を破壊しながら暴れる「ディオデラ」へと向かっていく。

 マリスタはビージを竜種りゅうしゅかげにかくまうサイファスと目線だけを交わし、今やるべきことを果たすため敵から遠ざかる。



 いくつもの屋根の先に、ヘヴンゼル城が見えた。



(――お願い。無事でいて、ココウェル……!!)




◆     ◆




 地が鳴り。



 振動に、少女が瓦礫がれきの山から転げ落ちた。



「った……!」



 もう何か所目かもわからない傷を足に負い、また血がにじむ。

 砂塵さじんにまみれきったくすんだ金の髪は浮浪者ふろうしゃのように不定形で、質素ながらもドレスとして仕立てられている衣服はところどころ破れている。



「もう……もう、いやだ……」



 ココウェル・ミファ・リシディアは、地面に血の跡を残しながら裸足で瓦礫の中を歩いていた。



「ヒぃッ……!?」



 付近で瓦礫が崩れ落ち、音に体を縮み上がらせて立ち止まる。



 息を殺し、迫っているかもしれない追っ手に怯え切った頭を抱えてうずくまる。



(……なんで)



 何故、自分がこんな思いをしなければならないのか。

 何故、自分を見つけ出してくれる味方が誰もいないのか。



 最初から、味方など誰一人いなかったからではないのか。



「……なんで……」



 生まれた時から、誰の愛も与えられなかった。

 気が付けば政治からは遠ざけられ、歴史書にも自分の名前と写真だけ載らなかった。

「出涸らし」の烙印らくいんを押され、打算以外で誰も自分と接しようとしなかった。



 アヤメ・アリスティナは最初から自分をオモチャだとしか思っていなかった。

 ケイ・アマセは事件解決のために自分を利用していただけだった。

 味方だと思った者達の中にはあっさり裏切者が現れた。



 わたしが何をした。

 わたしが悪いのか。

 わたしが、わたしが、わたしが――――



「……なんでわたしが、こんな目に…………」

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