5



 瓦礫の影の下、膝を抱えてうずくまり顔を伏せる自分。

 血だらけ傷だらけの足はじくじくと痛み、一層ココウェルをみじめな気持ちにさせる。



 どこから誰からもも遠ざけられた。

 何を言ってもうとまれた。

 だからもう、ただひたすら自分のことだけ考えるように歪曲わいきょくした。



(「お前ら」がそう望むから、わたしはそう生きただけなのに)


         そうしなければ、耐え        られなかっただけなの 



 頭上で瓦礫がれきがひび割れる音。



「ひィあッッ!!? あああああっっ」



 死に物狂いで前に飛び、どうにか下敷したじきを免れる。

 が、



「ひッッ――ゥっ、」



 太ももに走るこすり付けるような痛み。

 見ればスカートの端を突き破り、瓦礫から飛び出たさびかけた鉄棒が太ももの表面を削りえぐっていた。

 ひっかかり身動きさえ封じるその貫通に苛立ち、感情に任せてスカート部分を引きちぎる。

 太もも中ほどからスカートの半分が破れ落ち、所々ところどろこ青く血もにじむ片足があらわになった。



「……ッッどうして、どうして、どうしてっっ!!」



 奥歯をみしめながらしぼり出した言葉と共に、小さく地団駄じだんだむ。

 裸足で放った地面への地団駄は、足裏にただ痛みだけを残した。



 泣きたくなどないのに涙が落ちる。



 悲しさが、虚しさが、悔しさが――――寂しさが、彼女をどこまでも追い詰める。



(こんなわけない……わたしがこんなところで終わるはずないっ)



 歩く。



 もはやみそうになっている傷が地面に触れないように気を付けながら、ただ歩く。



 照りつける光は嫌でものどの渇きを意識させ、足に当たる小石は嫌でも足の痛みを忘れさせない。



 そして時折現れる死体が、否応いやおうなく自身に迫る危機を見せつけてくる。



「ッッッ!!! ぅ――――」



 何にやられたのか、その死体は内側から破裂でもしたかのように微塵みじんだ。

 群がり始めていたカラスがココウェルの足音に飛び立ち、ついばまれていた肉片にくへんが目の前に落ちる。



 革命が成った後の王族はどうなっていただろうか。

 生もあった。死もあった。

 自分は生かされるだろうか。

 老い先短く頑固な王より、案外自分の方が生き残らせてもらえるかもしれない。

 だが、ほとんど無法者のような民度の知れる手下を従えたこのテロリスト達が果たして、そんな計算をしたうえで事に及ぶだろうか。



 わたしはなぜ、もう捕まった後のことしか考えられないのだろうか。



「――わ。わたしはココウェル。リシディア第二王女ココウェル・ミファ・リシディアよ?」



 フラフラと、曲がり角へと差し掛かりながら――ココウェルは誰にでもなくつぶやく。

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