16
視界に捉とらえたのは、息を切らしたシータ・メルディネス。
チェニクと目を合わせた茶髪の小柄な少女は、何故か憎々にくにくしげに彼を睨にらみ付け――一言もなく、鼻息も荒いまま立ち去っていった。
「あ……謝りもなしかい……なんであんな怒ってたんだ、彼女」
少女の頭で打たれた胸をさすりながら体を起こし、より肩を落とすチェニク。
(誰もかれも勝手なもんだよ。今考えた、素晴らしいかもしれないアイデアが飛んじゃったじゃないか。えっと確か――)
〝今日は突然の集会なのに集まってくれて、みんなありがとう!〟
「――――あ」
「チェニク。おいチェニク」
「! ビージ――ってうわ。何その両脇りょうわきに抱えてる二人」
「気にすんな、ただのバカどもだ。お前は何してんだよ、ンなとこに突っ立って。なんかいい案でも思い付いたのか、『作戦』のよ」
「ビ……ビージ、君きみホントにあんな無謀むぼうな作戦、実現できると思ってるの? 僕は――」
「おう、無理だろうな。俺らだけでいくら足掻あがいても無理だ。……」
「……だ、だったらさ――」
「だからよ。俺らだけじゃなくて、全員・・でやんなきゃダメだろ」
「――ビージ? 何の話?」
「…………言ったろ。『作戦』の話だって」
〝変わらなきゃいけない・・・・・・・・・・んだ、僕たちはッ!〟
訝いぶかしむ不良二人を、その脇に抱えたまま。
ビージは顔を不安と興奮にひきつらせながら、決然とした目で悪友を見た。
「相談がある。チェニク」
◆ ◆
「…………」
「なぁーになやんでんの? エリダ」
「……わかる?」
「わかりやすいもんー!」
「名探偵パフィラさまね」
「どや! 話してくれてもいいんだよ!」
「うーん……うぅー!」
「うきゃーっ! だきしめられたー!!」
「ちょっとパフィラ、エリダの邪魔しないの。衣裳いしょうの事前準備プリセットとか色々あるんだから」
「いいよシスティーナ、ほとんど終わってるから。あんがと」
「……疲れてるね」
「ちょっとね。疲労は魔法でも、そう回復しないし。なんか昨日は寝れなかったし」
劇のセットが立つ演習スペース。
舞台の縁へりに腰かけて足をブラブラさせていたエリダは、パフィラを抱きしめたまま体を倒し、ステージに仰向あおむけになった。
システィーナがステージに両肘りょうひじを着き、組んだ両手を支えに顔をもたれる。
「あたし達、劇のこと考えてるだけでいいのかな」
「……ちょっと解わかるな。すごい状況だもんね、今」
「さいしょの話きいちゃったしなー。気になるよねー」
エリダの胸を顔でむにむにと弄もてあそびながら、パフィラが言う。
彼女ら三人は、「襲撃者」の存在を知る数少ない
「うん。だからなんか、協力できることないのかなってね」
「うん、ないと思うな。何をするにも危険だもの、
「それに、私たちもやくに立ったぜー? デモとかしたし!」
「……私も
「……そうね。ペトラさん、アルクスの兵士長だっけ。そりゃ考えちゃうか」
「今は劇でたたかってるしねー!」
「あはは……ホンモノじゃないから、
「シータ?」
システィーナの声。
と同時にドダン、と誰かがステージに駆け上がる音。
その音に意識を奪われたエリダの目が向くより早く、シータは舞台裏に引っ込んでしまった。
「え、ちょ……何? どしたのアレ、システィーナ」
「わ、わかんない……」
「けどあれ近よったらおこられるぞー! それいけー!」
「わかってるならそのテンションで近付こうとするなってのバカ!」
駆けていこうとするパフィラを押さえ、立ち上がるエリダ。
システィーナも加わり、荒い息遣いが聞こえてくる舞台裏へと恐る恐る近付くと、そこには……暗幕あんまくに顔を埋うずめるようにして座り込んだシータの姿があった。
「ちょ、ちょい……シータ?」
「ほっといてっ!」
「おぉう、おう。わ、分かったわよ分かった。ノータッチ。ほらパフィラ、システィーナも、今は」
「待って!」
「そっとしとこ――――え? なんて?」
「待ってて!」
息を切らしながら、布に当てたくぐもった声で――シータは三人を呼び止める。
「――話があるから。私が、落ち着くまで――――近くで待ってて、ほしいのだわ」
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