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 視界に捉とらえたのは、息を切らしたシータ・メルディネス。

 チェニクと目を合わせた茶髪の小柄な少女は、何故か憎々にくにくしげに彼を睨にらみ付け――一言もなく、鼻息も荒いまま立ち去っていった。



「あ……謝りもなしかい……なんであんな怒ってたんだ、彼女」



 少女の頭で打たれた胸をさすりながら体を起こし、より肩を落とすチェニク。



(誰もかれも勝手なもんだよ。今考えた、素晴らしいかもしれないアイデアが飛んじゃったじゃないか。えっと確か――)



〝今日は突然の集会なのに集まってくれて、みんなありがとう!〟



「――――あ」

「チェニク。おいチェニク」

「! ビージ――ってうわ。何その両脇りょうわきに抱えてる二人」

「気にすんな、ただのバカどもだ。お前は何してんだよ、ンなとこに突っ立って。なんかいい案でも思い付いたのか、『作戦』のよ」

「ビ……ビージ、君きみホントにあんな無謀むぼうな作戦、実現できると思ってるの? 僕は――」

「おう、無理だろうな。俺らだけでいくら足掻あがいても無理だ。……」

「……だ、だったらさ――」

「だからよ。俺らだけじゃなくて、全員・・でやんなきゃダメだろ」

「――ビージ? 何の話?」

「…………言ったろ。『作戦』の話だって」



〝変わらなきゃいけない・・・・・・・・・・んだ、僕たちはッ!〟



 訝いぶかしむ不良二人を、その脇に抱えたまま。



 ビージは顔を不安と興奮にひきつらせながら、決然とした目で悪友を見た。



「相談がある。チェニク」




◆    ◆




「…………」

「なぁーになやんでんの? エリダ」

「……わかる?」

「わかりやすいもんー!」

「名探偵パフィラさまね」

「どや! 話してくれてもいいんだよ!」

「うーん……うぅー!」

「うきゃーっ! だきしめられたー!!」

「ちょっとパフィラ、エリダの邪魔しないの。衣裳いしょうの事前準備プリセットとか色々あるんだから」

「いいよシスティーナ、ほとんど終わってるから。あんがと」

「……疲れてるね」

「ちょっとね。疲労は魔法でも、そう回復しないし。なんか昨日は寝れなかったし」



 劇のセットが立つ演習スペース。



 舞台の縁へりに腰かけて足をブラブラさせていたエリダは、パフィラを抱きしめたまま体を倒し、ステージに仰向あおむけになった。

 システィーナがステージに両肘りょうひじを着き、組んだ両手を支えに顔をもたれる。



「あたし達、劇のこと考えてるだけでいいのかな」

「……ちょっと解わかるな。すごい状況だもんね、今」

「さいしょの話きいちゃったしなー。気になるよねー」



 エリダの胸を顔でむにむにと弄もてあそびながら、パフィラが言う。

 彼女ら三人は、「襲撃者」の存在を知る数少ない魔術師まじゅつしコースの生徒だ。



「うん。だからなんか、協力できることないのかなってね」

「うん、ないと思うな。何をするにも危険だもの、武力ぶりょくを持ってない私達には」

「それに、私たちもやくに立ったぜー? デモとかしたし!」

「……私も義勇兵ぎゆうへいコースだったら協力できてたのかな。姉さんみたいに」

「……そうね。ペトラさん、アルクスの兵士長だっけ。そりゃ考えちゃうか」

「今は劇でたたかってるしねー!」

「あはは……ホンモノじゃないから、わかったつもりにはなれないけどね。でも……このまま黙って見てるしかないのは、なんかヤダなって。あたしにも――」

「シータ?」



 システィーナの声。

 と同時にドダン、と誰かがステージに駆け上がる音。

 その音に意識を奪われたエリダの目が向くより早く、シータは舞台裏に引っ込んでしまった。



「え、ちょ……何? どしたのアレ、システィーナ」

「わ、わかんない……」

「けどあれ近よったらおこられるぞー! それいけー!」

「わかってるならそのテンションで近付こうとするなってのバカ!」



 駆けていこうとするパフィラを押さえ、立ち上がるエリダ。

 システィーナも加わり、荒い息遣いが聞こえてくる舞台裏へと恐る恐る近付くと、そこには……暗幕あんまくに顔を埋うずめるようにして座り込んだシータの姿があった。



「ちょ、ちょい……シータ?」

「ほっといてっ!」

「おぉう、おう。わ、分かったわよ分かった。ノータッチ。ほらパフィラ、システィーナも、今は」

「待って!」

「そっとしとこ――――え? なんて?」

「待ってて!」



 息を切らしながら、布に当てたくぐもった声で――シータは三人を呼び止める。



「――話があるから。私が、落ち着くまで――――近くで待ってて、ほしいのだわ」

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