第53話 連鎖する導火線

1

「委員長候補が見つかったのか? 何なんだ、改まって」



 書類の処分を止め、グレーローブの風紀委員ふうきいいんペルド・リブスは三人――ビージとチェニク、テインツへと引き締まった視線を向ける。

 その声が途切れた時には、三人の緊張はこれまでにないほど高まっていた。



 たまらず、ビージが目を閉じる。

 微動びどうだにしていないにも関わらず、心臓の鼓動こどうだけがどんどん早まっていく。



 確証はない。

 保証もない。

 そのくせリスクは途方無く、大きい。

 ただ、



「大丈夫だビージ。きっと君は間違ってない」



 ただ――――絶望的だった未来に、可能性が生まれるのは確実で。



 彼らは、そこに全てをけることにした。



 チェニクの声にうなずき、ビージがペルドに視線を戻す。



「……話があんだ。ペルド、オメーに。風紀委員全員に」




◆     ◆




 転移てんい魔法まほう



 ついとなる二つの魔動石まどうせきに、魔力を注ぎ込むことによって作られる力場りきば

その範囲内にる全ての物理存在を、片方の魔動石からもう片方へと瞬時に転移させる魔法だ。



 移動中、転移の対象となった物理存在はこの世界とは異なる位相空間いそうくうかんに飛ばされ、魔動石が発する引力と斥力せきりょくによって現実空間を渡る。

 つまり、転移魔法陣てんいまほうじんを使った時に感じる、エレベーターに乗ったときのような浮遊感ふゆうかんは、位相を渡る際に生じるものだったわけだ。



 であれば、「この異世界」と「俺の世界」という二つの位相空間をつなぎ・渡らせたあの魔法・・・・も――――



行こうレディル行こうレディル行こうレディル渡りのアドウェナ――〟



 ――いな、あの「越界魔導えっかいまどう」とやらも、転移魔法の一種であったことになる、のだろうか。



 世界と世界を繋ぐ転移魔法。

 だとすれば、その力場を形成する魔動石があったはずだ。



 リセルが隠し持っていたのだろうか。そんな素振りはなかったように記憶しているが。

 治癒魔石ちゆませきさえ希少レアだと言われるこの世界で、そんな破格の代物しろもの一介いっかい魔女まじょが持っているものだろうか。

 いや、むしろあいつなら大いに在り得る話なのか。なにしろ――――



 ――――閑話休題かんわきゅうだい



 今考えるべきはそんなことではなく――――



「何を熱心に読みふけっているかと思えば、そんなものか」

「!」



 書籍から顔を上げ、聞き慣れない声の主を見る。



 小さな格子窓こうしまどから顔を出していたのは、見覚えのある銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの兵士長殿どのだった。



「……案外兵士長というのもひまなのか? ペトラ・ボルテール」

「更なる折檻せっかんが必要か? 立場をわかってるのか、貴様は」

「これ以上悪くはなり得んだろ。昨日の交渉・・で、俺の処分しょぶんは人々の眼前で確約された訳だからな。それを反故ほごにしてお前達の立場を信用を無くしたいならご自由に」

「不快な餓鬼がきだ」

「余計な気を払いたくないだけだ」

「それで友人の多いワケが解らんな」

「要件は何だ? 読書物の検閲けんえつか?」

「人聞きの悪いことを言うな。違法な魔術書まじゅつしょの類ではないかと個人的にかんぐったまでだ」

「検閲の上に職権濫用しょっけんらんようじゃねーか。聞きし・・・に勝る行い恐れるよ」

「……チッ。貴様特別態度悪いだろ私に」

「自室に不法侵入ふほうしんにゅうされた上違法薬物いほうやくぶつを吹っ掛けられればそりゃあな」

「あれはただの魔術だ解った上で皮肉るな」

「さてね」

「ふん……ま、読み物がそんなものなら、ここに来る意味も無かったな」



 ペトラが俺の手元を見下す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る