第18話 見ろ。
1
「ハッ! 気合を入れ直したくらいで戦況が
「
マリスタの背後に、
(! 多い――だがこんなモンなら
青の弾丸が
ロハザーは危なげなく
弾けた弾丸が白い
(チッ――――見えねぇ)
視界を
(やっぱり知識不足だお嬢サマ。魔力を感知される可能性ぐらい考えて
手をかざし、
「ほォ、
ロハザーの背後で霧が突き破られる。しかし、
(予測できないと思ったか?
「ッ!? くつ――」
「やあぁあッッ!!」
ロハザーの
「っ、ぅ……ッ!!」
――魔力を乗せて放たれた一撃。
顔面へと吸い込まれるようにして繰り出された一撃は、ロハザーが辛うじて上げた左腕に防がれる。
水が弾ける。
予想だにしなかった
ロハザーは
対する赤髪はしてやったりと
「動いたね。とうとう」
「!――……」
水の
「テメエッ……一発当てた程度で調子に乗るなよ!」
「お、あったあった。くつ」
(このクソアマ……!!)
「怒んないでよ。ちゃんと聞こえてるっつの」
靴をトントンと
「乗ってないわよ、調子になんて。――
「!」
「次は当てるわ。当ててみせる!」
マリスタはそう
同時にまた、彼女の背後に
「っ――――よくもそう次から次へと」
「言ったでしょ、まったく
「く――そがッ――――!!」
ごう、と音を立て、初歩の
「バカスカ撃ちやがって、アホが……!」
止むことのない
さながら
(……
水弾。水弾。水弾。水弾。水弾。
(……お、)
水弾。水弾。水弾。水弾。水弾。
(終わらねェ、だと……!?)
「ッ!!? ウッソだろおま――」
――複数の弾丸が
ロハザーが水の
ロハザーの
霧の中。
しっとりとした輝きを帯びた赤毛の少女は、またもロハザーににかりと笑ってみせた。
「また動いた!」
「……バカな、」
(あいつ――疲れ一つ見せてやがらねぇ!?)
「さあ――まだまだよッ!」
「う――ぉっ」
絶え間ない
「バカに――しやがってッ!」
走りながらの
広範囲を覆う
「くらうかッ!」
――赤毛の声とともに発せられた
弾かれた雷撃は障壁を
「くそっ――」
「もうビリビリは受けない――マトモに撃つヒマだってやらないッ!」
「!! っ、」
弾丸の雨は止まない。
乱発される水の弾丸はロハザーを追うだけに
(…………こんだけやってまだ息切れもしてねぇ。この
「……
「ッ!?」
障壁は数多の弾丸を突き破り――――ロハザーの右手が
「しま――もう障壁が使っ」
「djふぃあぐッッ!!!」
「か――ァ、」
目を
殴られた衝撃で彼女は遠くに、
「まだだぜ」
「!?」
吹き飛ばない。
突き込んだ拳で瞬時にマリスタの
拳に再び紫がちらつき、
「drつふゃふをいえおふgy7y9ぁああああああ!!!!!」
ロハザーの体内で
マリスタの震えを
「どうだ――どうだコラァッ!!」
「jひy……f6ぎぇ……!!!」
「!?」
マリスタを
「――――、」
腕を
「テメェ……は……!!」
――この
ロハザーが手を離し、
小さな
うつ伏せで倒れ、動かなくなった。
「はァ……っ!」
――大きく息を吐いた自分に、ロハザーは
(バカな。グレーローブの俺が、こんなザコに息を乱したってのか……!)
「…………ふざけろ。マジで、テメェ」
ロハザーの目からは、マリスタの表情は
しかし彼女は、震える手で地面をひっかくようにして再び起き上がろうとしている。
(どうしてだ)
「なんであんたは……俺は……!」
(あんたと――テメェごときとフツーに戦ってんだ?)
そうしている間にも、マリスタは壁で体を支え、震える足で立ち上がっていく。
(圧勝だろ、フツー。それが……残り数分? こんなワケねぇ。だってよ、これじゃあまるで――)
青い瞳が、ロハザーを
少年は、自分が
(俺とこいつが、
「…………がむしゃらに頑張っただけじゃねーか、あんたは」
「ハァ……ハァ…………は?」
「
「チッ…………うっせーわね、あんた……ハァ……!」
(――ああ、くそっ。止まんなさいよ、足の
疲労は大したことはない。
しかし、
この後
だが、
(……あんだけ「ビリビリは食らわない」、「撃つ
これまでは、どれだけ悪目立ちしようと良かった。
「自分は努力をしていない」。それがマリスタにとって、悪目立ちの
努力を一切せずにこの状態であったなら、マリスタの身体を重くするものは何もなかったであろう。
だが、今は事情が違う。
歩き出した少女には、
(…………勝てなかったら、どうなるんだろう。私)
考えても仕方ない事ばかりが、顔をしかめた少女の
「これまでマトモな努力をしたことがない
負ける。
見放される。
見限られる。
負い目の中で、ずっと生きていく。
〝たすけておねえちゃん、たすけてぇ……〟
〝私がケイと一緒にいる! 私がケイと一緒に強くなる!〟
――その人生全てが、「約束を守れなかった」ものになる。
(――
思わず
敗北の意味を、その先の
(どうすればいい? どうすれば私は――ハイエイト君に勝つことが出来る?)
考える。
「テメェと俺にゃ
(
考える。
「
(
考えれば考えるだけ体は固く重くなり、不安に支配された頭ばかりが空回りしていく。
(ケイはあんなにあっさり勝負を決めたのに。私はあいつに並び立つために、こんなとこで立ち止まってられないのに。あの泣いてた子との約束を守るために勝ち上がって、
その重みはまるで、身の
(勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ……!!どうすればいい?どうすれば――)
「俺の話を聞いてやがンのかッ!!?」
――ロハザーの声など眼中になく。
マリスタは無意識に、
求めた姿はすぐに見つかる。
圭はただ静かな目で、彼女を見下ろしていた。
(ねぇケイ、私はどうしたら……)
目が合う。
それだけでひどくほっとした気持ちになる自分を、マリスタは
「 」
「――――――えっ」
――――その
何かを自分に語りかけた圭を、確かに認識した。
考える間もなく、
「ッ!!」
(!? ウソ、防げた――これまでは、攻撃が飛んできたときにはもう遅かったはずなのに)
紫の雷が消えた先には、相も変わらず怒り顔のロハザー。
しかし、今度はさしものマリスタも感じ取る。
(……どうして勝ってるあいつが、あんなに怒ってるの?)
ロハザー・ハイエイトが、冷静さを欠いていることを。
「テメェごときに全力出してられるかよ。テメェごときと本気で戦ってられるかよ。俺はこれまでコツコツと積み上げてきた。これからもどんどんどんどん積み上げ続けなきゃいけねぇんだ。『この試合に全力を』なんて開き直りが平気で出来るテメェとは違ってな!」
「!! 私の全力を、言うに
「
「ッ……
「
「ロハザー・ハイエイトォ――――ッ!!!」
灰と赤が叫ぶ。
こんなに誰かが腹立たしいのは、マリスタにとって実に久しぶりのことであった。
どうして私は、こんなにも目の敵にされている。
どうして一歩を踏み出しただけで、こんなにも叩かれる。
身に覚えのない小難しい努力の
(――あれ?)
――そんな感覚に。
マリスタは
(そうよ。このイライラ、最近感じたことがある。
〝俺は嫌いだ。お前が。お前のような馬鹿が〟
「…………
〝お前みたいな馬鹿が俺に並び立てるか〟
〝お前と俺の歩く道は違う。こんなことをしても俺は何も変わらない――二度と俺に関わるな〟
その言葉のどれもこれもが、マリスタの決意を――気持ちを
(お互い力尽きてたし、結局白黒つかないまんまだけど……思い返してみても腹立つなぁ。……でも、やっぱそう。あの時のケイの言葉と今のロハザーの言葉は、どこか
「
「ッ!!?」
「あんのかって――言ってんだろうがッ!!」
(うっひゃ、我ながら今よく反応出来たわね本能!!? ってヤバ、
しかし
二撃目の
「、……!?」
拳にひび割れた障壁は、マリスタのいる空間に
憎しみに染まった
マリスタは、初めてまじまじとロハザーの目を見た気がした。
(……戦ってたのに?)
ほどなく手に
――瞳がちらつく。
その時見せたロハザーの、怒りをまとった
〝私の
それが、いつかの自分によく似ていたから。
〝私は、あんたの友達になりたい〟
伝えても伝えても
届けても届けても、その決意は決して受け取ってはもらえなかった。
〝勝手にすればいい。私も勝手にしますから。…………でも〟
〝ちょっとでも、こっち見てほしいな。ケイ〟
決意と共に、少しの不満を訴えることにしたのだ。
(さっき、ケイは……なんて言ってた?)
――
〝ちゃんと
「…………あんたが言うな、ばーか」
(……笑ってやがる。とことんまで馬鹿にしやがって、ザコが)
(時間だ。さっきは
ロハザーが静かに目を見開く。
手に最後の
「――――? 、」
――思わず大きく息を吸い込んでしまう程の、巨大な魔波を感じた。
(バカ言え。この
マリスタの魔波が、ロハザーの圧を残さず飲み込み、食い尽くす。
「ぐッ……!!」
腕で顔を
(
――――
「――!!!? テメェ、」
「わたしッ!!」
魔波の嵐の中心で。
「最後まで、あんたとここに居たい!」
◆ ◆
「あ――あんたとここにいたいって、あいつ……どういう、その、どういうこと?!」
「じゃ、
エリダが動転しているのを見て、システィーナが苦笑いする。
その他も大体
「ケイさん。さっきあなた、一体何をマリスタに吹き込んだのですか?」
「? 何の話だ」
「とぼけないでくださいますかっ?☆ あの子がああして
「どんな先入観だそれは……俺はあいつの師匠じゃないんだぞ」
スペースを見る。
周囲を見る。
やられるたびに、より強くなって立ち上がる。
その姿はまるで、いや、
「……あれって、マリスタ……なんだよね?」
「んにゃ? 何言ってんのさパールゥ、バカになったの??」
「馬鹿はあんたよパフィラ、パールゥはそーいうこと言ってるんじゃないの」
「???」
「うん……私も、同じことを思ってた。あそこに立ってるマリスタは……」
「全然、弱そうには見えない……わよね。ムカつくけどむしろ……強そう」
リアの言葉をシータが
そう思うのも、無理もないな。
「なんで笑ってるんですかあなたは気持ち悪いですねぇ、バッチリ映しましたからねっ☆」
「不思議だよな。あいつらの実力差ははっきりしてるのに」
「…………………………」
「え。でもアマセ君、こうして見てても、あの二人の力は」
「同じに見えるって? まさか。細かい
「でも実際に今、マリスタはハイエイト君と
「ああ。そうだな」
「言いたいことがあるなら
実につまらなさそうにナタリーが言う。
そっちの顔の方が似合ってるな、お前は。一生ぶすくれてると良い。
「テインツやヴィエルナ、上位のローブを持つ学生達……圧倒的に実力差があると思った相手でも、いざ戦ってみると
「私と互角……?」
「ほらキースさん、どうどう」
「ずっと不思議だったけど、場数を
……周囲の奴らがポカンとしている。
俺はまた、何を長ったらしい
「……――――頑張れーーーーッ!! マリスタぁーー!!!」
「!?」
パフィラが突然大声を張り上げ、声援を送る。
エリダが
「っしゃぁ、行くのよマリスタッ! グレーローブなんかぶっ飛ばしちゃいなさいッ!!」
「マリスタッ!」
「……ま、マリスタっ!」
「頑張って、マリスタッ」
「…………さあ、応援しましょ。ナタリー」
次いで動き出したパールゥとシータを見てニコリと笑ったシスティーナが、
目を
「……ああもうっ。そら皆さんどいてくださいっ真ん中は私の場所ですよ! やーもう、ここまで来たら野となれ山となれですっ! 残り数分、走り抜けてくださいマリスタッ!! が――がんばってくださいーーー!!!」
「その意気ね、ナタリー。さぁ、応援するわよーっ!!」
「おー。!」
「わっ、キースさん!?」
――やがて諦めたのか、
腹の奥からやってくる、何だかよく分からない笑いをそれなりに頑張って
マリスタは再び
「いくわよ。ロハザー!」
行け、マリスタ。
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