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「話を逸らさ――」

「大事なことなんだパールゥ、頼む。リリスティアを見かけなかったか?」

「……もぅ。リリスティアって、リリスティア・キスキルさんのこと? 知らないよそんなの。あの子の何が大事なの?」

「探してくれたら話すよ。開演まで時間が無い、あいつも一般客だろうからこの辺りに――」

「ふふっ。実は一般客じゃないんだなぁ、これが」

『!』


 

 その手が、群衆ぐんしゅうの頭上でひらひらとされていたかと思いきや――手を振る少女の正体に気付いた者達が一斉に道を作り、リリスティア・キスキルは御馴染おなじみの変装へんそうを解きながら、悠々と俺とパールゥの下へと近付いてきた。



「ちゃんと解放してもらえたんだね、アマセ君。よかった」

「き、キスキルさん? 『一般客じゃない』ってどういうこと?」

「え? アマセ君はともかく、フォンさんも何も聞いてないの? あれ、どういうことだろ」

「一般客じゃないということは……関係者席ってことなのか?」

「そう。誰だっけ、あの……そう。セイントーン君とか、オーダーガード君が。君にはゼヒ関係者席でて欲しいって」

「…………関係者席って招待席じゃ無いハズなんだけどな……」



 口元だけで笑いながらパールゥ。

 気持ちは解らんでもないが、関係者席に招待したい気持ちもわからんではない。リリスティアはあのデモもどき・・・・・にて、学祭がくさい最終日と劇の千秋楽せんしゅうらくを取り戻すのに多大なる貢献こうけんをしたであろう、文字通りの救世主きゅうせいしゅなのだから。



 ……にしたって、身内のパールゥさえ知らないってのはよく分からん話だが。

 誰の計らいなんだろうか。



 まあ、それはともかく――――これで、残るはあと一人・・・・・・・



「今回の学祭で、一番楽しみにしてたんだから。今は体調もよさそうだし、無理せず頑張ってねアマセ君、フォンさん。応援してる」

「ああ、ありがとう」

「ありがとうっ。じゃあ、本当に時間が押してるから――行こうケイ君ッ」

「――おう」



 しかし。

 舞台裏に引っ込んでしまっては、舞台の外にはもう手出しが出来ない。

 ある意味、あいつ・・・が一番の重要人物なんだが……まあ仕方あるまい。あの朴念仁ぼくねんんじんが、いかに人気を博したといえイチ学生の芝居しばいなんぞに興味があるとは思えないしな。



 つまり、やれることはやり尽くした。

 この観衆。パールゥ。ココウェル。アヤメ。

裏に居るであろうマリスタ。シャノリア。客席にいるであろうナタリー。



 これで何も起きなければ――――それはそれで、進展もある。ひとまずあきらめも付く。



 人事じんじくし天命てんめいを待つ。



 俺に出来るのはもう、祈ることだけだ。

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