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 ――――両肩をつかみ、大声と勢いでココウェルの声をかき消しひるませる。

 大勢の見てる前でなんてことを口走ろうとするんだ、この女。

 危うく作戦・・が全部パーになるところだ……!



 ――――いや、違うか。

本来の「俺の作戦」は、今をもっ息を吹き返した・・・・・・・んだ。



 アルクスに拘束こうそくされて以後、俺はココウェルらと一切コンタクトを取れずにいた。



〝ビージ、チェニク、テインツ、ロハザー。もう一度、俺とケンカをして欲しい〟



 順調に進んでいた俺達の作戦――――不仲を演じ、ケイ・アマセがプレジア内での居場所の無さに苦しんでいるように見せた上で、ココウェルが俺を完全に自分のモノにしようとするよう仕向ける。

 そうして奴に近付きつつ、核心に迫る――襲撃者との関与がないかを聞き出す。



 そんな作戦が丸一日、完全に暗礁あんしょうに乗り上げてしまっていたのである。



「き――急に大声出すなよっ。だまされちゃだめよケイ、こいつら・・・・はあんたが心配なんじゃなくて劇が出来なくなることが――」

「やり切りたいんだ、この劇を!」



 ……今のように待ち切れなくなったココウェルが、アルクスを力尽ちからずくで突破して無理矢理会いに来る。

俺や学祭がくさいに興味を失い、帰ってしまう。



 どちらか一つでも起こってしまえば計画どころか、襲撃者への対抗策たいこうさくさえ完全に破綻はたんしかねない事態だったのだ。



 だが、ココウェルはこうしてここにいる。

懸念けねん杞憂きゆうに終わった。



 俺の作戦はまだ生きている、だから――ココウェルはともかく、パールゥやアヤメの疑念をつのらせるような会話を、長引かせる訳にはいかない。



 ――加えて、もう一つ。



「そしてココウェル、もう一つ頼みがある――この劇を、もう一度観てくれないか?」

「は――――ハァ???」



 ……心底嫌そうな顔をするココウェル。

 やはりというか、劇とかには興味のないタイプか。



 だが、どうあっても見てもらわなければならない。

 ここは――



「ココウェル、実はな」

「うっ……ちょ、急に顔近付けんな――」



 ――パールゥが実力行使に出るより前に、ココウェルへの耳打ちを終わらせる。

 途端とたん、ココウェルは一瞬目を丸くして――ニ、と悪そうな笑みを浮かべた。



「へぇ~。そっかそっか。ふぅ~ん? そういうことならまあ、観たげよっかなぁ」

「……ありがとう。楽しみにしててくれ」

「ちょ――ちょっとケイ君、何言ったの今!?」

「気にするな、大したことじゃない。じゃあココウェル、頼んだぞ」

「ハン、わたしの騎士の頼みなら仕方無いわァ。せいぜいわたしをがっかりさせないでよね!」



 機嫌よさげに手を振ってくるココウェル。

 どうやら上手くいったようだ。

 これで、俺に出来るのはあと二・・・・・・・・・・――



「ケイ君! 何話してたのってば!!」

「パールゥ。リリスティアを見てないか?」

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