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◆     ◆




 パールゥに手を引かれ、訓練施設より随分ずいぶん大きな演習スペース――もとい、劇場へと足をみ入れる。



「みんなー! ケイ君連れて来たよー!」

「! ケイッ」

「――マリスタ、今回はありが――ふっ?!」



 ――礼を言おうと開きかけた口を、投げつけられた布でふさがれる。

 面食らって顔から引きがしたそれは、俺がげき序盤じょばんで着る衣裳いしょう、トガだった。



 それを認識した直後、バシンと両肩を同時に叩かれる。

 眼前にマリスタの――火のいた目があった。



「あと十分で開演。礼なんて後でいい、みんな裏に押し込んどいたから早く準備して」

「み――みんな?」

「はーいアマセ君、そのまま動かないでねー」

「ふ、服を脱いでいただけますかっ……」

「え……あ、」



 気が付けば、周りにはシスティーナら衣裳係いしょうがかりが居て。

 眼前にはマリスタでなく、化粧けしょう道具どうぐ一式が滞空しただよっていた。



「さあ、急いでアマセ君。悪いけど、服はこの場でそのまま脱いでってね。時間ないから」

「こ、ここでか」

「目閉じてるから。ホラ」

「そ……そうか、わかった」

「マリスタ、早くこっち来て。まだ小道具、再確認途中」

「ああぁっ、ごめんヴィエルナちゃんっ!」

「――?」



 俺の下を離れ、何やら演劇部えんげきぶの生徒に向かって頭を下げていたマリスタが、今度はわたわたとヴィエルナの下に歩いていく。

 あいつ……まだ小道具の確認終わってなかったのか?



「アルテアスさん達も、戻ってきたのついさっき・・・・・だったんだよ。ホント、何を考えてるんだか」

「……リフィリィ」



 銀の長髪を小さくまとめ、反逆の神ヌゥの衣裳を身に着けた演劇部の少女、リフィリィ・フェルトニスがムスッとした顔で言う。

 わざわざ手で目隠しをして近付いてくるとは、余程大事な用事か。



「アマセ君は何か知らない?」

「何のことだ?」

「アルテアスさん達が遅れた理由だよ、もちろん。誰に聞いてもごまかして全然答えないんだから」

「誰に聞いてもって……誰にだ」

「……あなたもごまかすか。ふーん」

「アルクスの仕事ナメてんのか、あんた。あいつらの監視下でどうやって俺が奴らと連絡取れるんだよ」

「…………ホントに知らないみたいだね。バディルオンとかハイエイトとか、エリダちゃんとか。その辺の人達だよ、あなたよく一緒にいるじゃない。ディノバーツ先生まで遅かったんだから」

「シャノリア……先生まで?」



 ……何か動いているのか。俺の知らないところで。



 マズい。

もしかすると、俺がもう動けなくなったと見て、自分たちで何か別のさくを実行し始めたのかもしれない。

だが違う、まだ俺の策は生きている。



「はいアマセ君、衣裳着付きつけるよー」



 クソ――なるべく早くマリスタたちに確認を取らなければ。

 今、視界にはナタリーの姿も映っている。あいつでもいい、とにかく確認するんだ。下手に動かれれば――



 ――――ナタリー、だと?

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