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「え?」
「なんでそうまで食い下がるんだ。どうして俺にそこまでこだわるんだ」
「何回も言わせるなって言って――」
「それはさっき聞いた。お前、友達って関係を
「あーあー、シンカクカとかショウネンシとか難しい言葉は分かりませーん」
「現実を見ろ。……お前の
「む、難しいこと言われても分かんないったら……でも、そうだな。確かに、『友達』って言うのは違うとこもあるかも。他の言葉で言えば…………そう。『恩人』だ」
「…………恩人だと?」
「そう。気付いてないかもしれないけど……ケイは、もう私にたくさんのものをくれてるんだよ」
〝気休め言っても何にもならないだろ。
「あんたが来るまで私は、このプレジアでただの
〝自分のスペックを自分でしっかり測れてるのは大事だと思うがな……お前のように損をしないためにも〟
「私、気にしてなかったんだ。成績悪いのも、大貴族の中で
〝いいじゃないか。現時点で馬鹿だってことは、まだまだ伸びしろだらけってことだろ――――気休めじゃないさ、事実を言っただけだ〟
「……その背中に
…………
俺を見るマリスタの目。
「ケイはすごいよ。たった二週間で、私をこんなにも変えてくれちゃってさ」
「俺は
「…………あんたがそうやって。
笑ってやがる。
「そんなものはただの
「だから、アンタは私の恩人なの。そんな大事な友達と、私は並んで立ってたい。一緒に歩いていきたい。道を間違えてる時は、止めてあげたい! そんだけ!!」
「――――――――………………」
……マリスタという人間を、俺は
〝あなたはお母さんと同じ……いいえ。お母さんよりも大きい、大きい優しさを持っている〟
黙ってくれ、頼むから。
「…………この、」
もう、御託は一切要らない。
奴の力は
「お
「怒ったって負けないんだからッ!」
再び風と共にマリスタの魔力が
回転しながら
ならば――!
「
「っ!?」
「あ、新しい魔法っ!? そんなの、ヴィエルナちゃんの時は使って――」
「あれからもう数日だぞ? あのときと同じ俺な訳が無いだろう――!」
「く――いけぇっ!」
手を相手に
先に展開していた分、
辺り一面に、濃い霧が飛び散る。
「うわ、爆発すご、げほ――って、うお危なッ!」
「
「ふぅっ!?!――――
「
「うわっ、また障壁を凍らせ――って、さっきと同じ手は食わないよっ!」
気を取られ過ぎだ。
「ッ!? ぁぐ――!」
「ッッ?!?!??!?!?!?」
障壁を展開しようがない
「どさくさに――――触ってんじゃないわよえっちーーーッッ!!!」
「!?」
マリスタが俺の手を力強く払いのけ、吠えると同時に――――何もなかった彼女の足元から、
体が宙を飛び、足で何とか倒れず着地した。
感情で爆発させた魔力に
「――
〝けいにーちゃん〟
「くっ――!」
……またも、
「スキありッ!」
マリスタの棒を、握った氷柱で受け止める。
こいつ自身も、大した棒術の手ほどきを受けているわけではない。握り方や攻め方はチャンバラをやってる子どもと何ら変わりないし、ヴィエルナのような達人と違って
だから、問題はそこじゃない。問題は――――
〝ずっとずっと、俺が守るよ。父さんも母さんも、メイも! 約束する!!〟
――――
「とりゃあああっ!」
「チッ――!」
棒と
水が飛び、俺を、マリスタを
〝この先きっと、あなたをちゃんと理解してくれる人が現れる。先生には解るの〟
痛い。
「ぁ――――っ」
「ガラ空きッ!」
「ッッッ!!」
横から首に巨大な衝撃。と同時に水の棒が弾け、俺の髪と服を
――――違う。
「へっへ――今のは痛かったハズッ! どうよケイっ、私もやるもんでしょ!」
「――――違う」
「え?」
あいつは、俺を理解してなんてない。俺は、あいつを守ったりしない。
あいつが嫌いだ。あいつは邪魔だ。
俺が
「俺はお前に何も与えない、」
「ケイ――あんた、なんて顔して――」
マリスタの声が聞こえない。
口が勝手に、動く。
「与える訳が――与えられる訳が無い。だって俺には
こいつと俺の間に、もう言葉なんて必要ないのに。
「全部無くした俺に、何も求めんなッ!!!!」
「これからは私がいるからッ!!!!」
「!、!?」
――――その立ち姿はまるで、
「私はもう、もらったから。だから今度は、私が与える側になる! 私がケイと一緒にいる! 私がケイと一緒に強くなる! 一緒に犯人を探すし、こらしめる!! それで、あんたが道を踏み外しそうになった時は――――ブン殴ってでも止めてみせる!」
「ほざけ――ほざけッ!!」
「ええ、
「マリスタァァァァッ!!!」
「ケイィィィッ!!」
水の弾丸が襲い来る弾幕の中を、俺は――
「まだよ――せやっ!!」
「
「ッ!? また――」
水の棒を避け、再度左手で凍結させる。砕け、俺の視界に結晶と散る
「くらわないよっ!」
マリスタが障壁を展開する。魔力の感じからして、物理攻撃を防ぐ
かかった。
手を開き、障壁にベタリと触れる。
マリスタは、目と鼻の先。
「!? ちょ、打撃じゃ――」
「
これまでで最大数の
氷の
「ごッ、ぶォっ、 、あっ、ぐっ!!――――が、あ――――!!!」
水圧。水圧。水圧。
「、ぁ……っっ……!!」
白く
マリスタは――――四つん
見れば、その体は
自分の背後に展開した
「どこまでも
……体が動かない。覚えがある感覚だ。
恐らくこれ以上動けば、また血を吐いてしまうだろう。
――――……
「いたたた……もう。その
……どうやらあいつも、それは同じ様子。あれだけ魔力にあかせた戦い方をしたのだから、それも当然だ。
俺のような
〝私がこのコースに来たのは、ケイと並び立つためよ〟
「……
――――
〝一人で立ちたいならせめて心配されないようにしたらどうなのッ!〟
〝私は、あんたの友達になりたい〟
〝アンタは私の恩人なの。そんな大事な友達と、私は並んで立ってたい。一緒に歩いていきたい。道を間違えてる時は、止めてあげたい!〟
…………
……バカだったのは、俺の方かもしれない。
「あれ??? ほんと力入んない! んん~っっっ」
「…………あまり力むな、馬鹿。この間の俺のようになりたいか」
「えっ!! え、じゃあこれって……」
「そう。その感覚が魔力切れだ。……義勇兵コースの学生でいるつもりなら、その感覚をよく覚えておいた方がいいぞ。死にたくなかったらな」
「う……上から目線だなぁ、自分だって無理して倒れたくせに…………って。あれ。もう『
「俺が言ったってお前は聞かないだろう。怒りを通り越して
「ぐぬ……見てなさいよ、ケイ。私は諦めないからね。あっという間に強くなって、必ずあんたと並び立ってみ」
「勝手にしろ」
「せるからね――――え」
マリスタが口をあんぐりと開けて俺を見る。
穴の開きそうなほどに、見詰めてくる。
やっとの思いで首を動かし、視線を
……いや、逸らす必要はないだろう俺よ。
堂々としていろ、その仕草ではまるで――
「い――今なんて言った? え??」
「?! お、おい。体は動かせないんじゃなかったのか
「いやいやいや。ちょ。え? 今さぁ。『勝手にしろ』って言った?? ってことはさぁ、私、ケイのそばに居ていいってこと??? 何???? 急にデレるの何?????」
「這い寄るなニヤニヤ笑うな
「動けないみたいだねぇ、うぅん?? そして、え??? 照れてない??? その顔は照れてない????? ねへへへ」
「気持ち悪い笑い方しやがってこの、魔力タンクが……」
「しひひひひ……あ。でももう限界だわ。緊張とけて急に……きつ。むり」
壁に背を預けている俺の手に右手で触れ、ぱたりとうつ伏せるマリスタ。
払いのける力も出ず、俺の指からマリスタの指へと流れていく
〝ありがとう、けいにーちゃん〟
……もう、痛まなかった。
そう。この手を払いのけられるだけの力を手に入れるまでは、俺に……この手を遠ざける資格はない――
であれば……こいつが自発的に離れていくよう
「…………んっ。」
きゅ、と指が握られる。
「……おい、何のつもりだ」
「別にぃ。でも、この試合さ。まだ動けてる私の勝ちだよね?」
「……どうでもいいが、試合時間の十五分は過ぎてる。この場合はどうなるんだ?」
「え、過ぎてるの!? えっと、
「馬鹿を言え、
「はいはい」
「お前…………――」
……無駄に心を動かすのはよそう。
「あれ?? 認めた??」
「寄るなと言ったろうがこの――まだ動けるのかこの体力馬鹿め……何とでも言え。俺には関係ない」
「さっきまでムキになってたくせに~」
「俺は変わらないぞ。お前が並び立っていようがいまいが、必ず目的を果たす」
「はいはいはーい…………しょ、っと。ふう、やっと一息つけt……」
マリスタがやっとのことで俺の隣に
「……………………アーツカレタナーアレーカラダガー。」
……かと、思ったら。
何を思ってか、マリスタは――――ぽすん、と、俺の肩に頭を
「………………おい、何のつもりだ離れ――」
「勝手にすればいいよ」
「何?」
「勝手にすればいい。私も勝手にしますから。…………でも」
マリスタが、
「――ちょっとでも、こっち見てほしいな。ケイ」
――それきり、マリスタは声を発しなくなった。
どうやら気絶したらしい。
「………………」
小さく上下する、マリスタの体を
…………
ヴィエルナの時、こんな状況にはもうなるまいと誓ったはずなのに……情けない話だ。
「……今度こそ誓おう。次誰かとやる時は、動けるだけの余力を残して勝つと」
一人、空間に言葉を投げる。
その声に呼応するように、演習スペースはゆっくりと
……早く戻れ。体力。
こういうよく解らない時間は、好きじゃない。
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