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 振り返った先には、見慣れないベージュローブの少女の姿。

 一体誰だっただろう、と目をすがめるマリスタに、少女はその反応を楽しんでいるようにニコリと笑って応じた。



「そっか。アマセ君には見せたけど、アルテアスさんに見せるのは初めてだもんね――――おはよう・・・・

「!? あ……!?」



 ――少女の声変わり・・・・に、そしてその声に、マリスタが目を見開く。

 その間に、少女は髪をほどき、大きな黒縁眼鏡とマスクを取り払い――――再びマリスタに微笑ほほえんでみせた。



 ライブの時と変わらない、あの見る人の心をざわめかせる笑顔で。



「り――リリスちゃんッ?!?!」

「はい、リリスちゃんです」

「あ、はいおひさしぶ……じゃなくてっ?!? ちょ、そのお忍びセット、今とっぱらっちゃったら……!」

「ふふふ。ライブぶり――――いや。アルクスとケンカしてた、あのときぶりだね」

「おい、あれ……」「リリスちゃんだ!」「リリスティア・キスキル!?」「お忍びのカッコもカワイかったねー!」「うわ、近い近い!」「サインもらえるかな……!?」

「え!?――あ、そっか! リリスちゃんも……」

「うん、義勇兵ぎゆうへいコースだから、あの場にいたよ。騒がれるのキライだから、ああいう場ではなるべく目立たないようにしてるけど……ちゃんと見てた。アルテアスさんが兵士長につかみかかるところ」

「!」

「残念に思ってたの。学祭がくさいは中止で、アマセ君も捕まってるって聞いて……劇、今日見に行こうと思ってたから。でもアルテアスさん達、ちゃんと彼を助けようと動いてたんだね。そんなこと、私は考えもしなかったや」

「…………当然。このまま終われないよ。ケイのことも、学祭のことも。のことも」

「……そうだよね。諦めちゃだめだよね。今のケンカを聞いてて、アルテアスさんを見て。そう思ったから、こうして顔を見せることにしたの」

「え? あ、あのリリスちゃん、それってどういう――」

「みんな! 聞いて欲しいことがあるの!」



 ――リリスティアが手ごろな足場に飛び乗り、群衆より頭一つ高いところから声を発する。



「実は今日、学校長がっこうちょうとアルクスから、大魔法祭だいまほうさいの期間短縮の連絡が届きました! 学祭は今日の放課後までで終了、明日からは通常通りの学事日程になるそうです! これからそれを、義勇兵コースの人達が伝えて回る予定になっていました!」

「え」「え、嘘」「マジ?」「終わんの学祭?」「何よ、アルクスが動くようなこと起こってんの?」「そう言えば今朝見たぜ俺、アルクスが帰ってきてんの!」「えーなんで!?」「中止ってンなバカな……」「なんでンなことになるんだよ」「やだー! まだ回ってないとこいっぱいなのに!」

「中止の理由は、私達も多く知らされていません! 私達プレジアの生徒はただただ、アルクスと学長の決定に従え、と言われているのです! 理不尽だとは思いませんか!?」



 ……非難の声が上がり始める。

 上がり始めた声は次々と衆目に伝播でんぱし、次第に――――大きく大きく、マリスタを、テインツを、シータを包んでいく。

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