第22話 破壊衝動

1

「終わったねー!」

「お疲れっ、ケイベル! 最後の上級じょうきゅう魔法まほう、シビれたよ! 狙い方もタイミングもバッチリだった!」

「たぁ~リリスちゃんっ!! 惜しかったねーマジで! 俺絶対勝ったと思ったもん!」

「いや! むしろ歌っておどれるリリスちゃんが圧勝だったね! 不戦勝だったね!」

「これは戦いですし、負けは負けですから。相手の技量が上だった、というだけです。これを活かして次にのぞみますよ」

謙虚けんきょな姿勢もステキッ! サインちょうだいっ」

「コラっ! 抜け駆けはダメよっ」



「『それでは、これにて第一ブロック、一日目すべての試合を終了とします! 事前に配付された資料をよく読んで、二日目に備えてください! 各自解散!』……っと」



 観覧かんらん席のはしにある一際ひときわ高い円柱から飛び降りたシャノリアは、その金砂きんさのような髪をたゆたわせ、り固まった体を伸ばしながら辺りを見回す。

 どのブロックも試合は終盤しゅうばんなようで、それなりの盛り上がりを見せている――試験の趣旨しゅしとはまた違ってはいるが。



 そんなことよりも。



〝俺の家は「無限むげん内乱ないらん」ですべてを失った〟

〝二十年前まではまだ、貴族制度きぞくせいどほうとして残ってた時代だ。親父はそれを、必死で守ろうとした〟



 シャノリアが気になっているのは、第二ブロックの試合だ。



 気合や悲鳴など、戦いの声が聞こえてきたなら、まだいい。それならば、ある程度ていど試合の内容も想像がつく。

 だが、けいとロハザーの居る第二ブロックから聞こえてきた声は――



〝――そして母さんは死んだ。俺を生んだことが原因で〟

〝気付いてるだろそのくらい。何をどう考えれば『平民』の連中をしいたげることが貴族の格を守ることにつながるんだ〟



(あんなのは声じゃない。もう完全に「言葉」じゃない)



 十五分という制限時間がある以上、対戦する者達は原則として、戦いの手を休めない。

 実技を見るための試験だ。戦わずにいる時間が増えれば、それはそのまま評価される行動が減ってしまうのと同義どうぎということになる。そして無論むろん、時間稼ぎのための会話だと判断されれば大幅おおはば減点の対象にもなる。

 実技試験においては、いかなる会話もリスキーであると言わざるを得ないのだ。



〝……覚えてるだろう、お前も。テインツの、あのザマを〟

〝お前は、いやお前達は、『大切だから守っている』わけじゃない。『怖いから従っている』だけなんだよ〟

〝ロハザー。お前の戦う理由はなんだ?〟



(だってのに、あの子たちときたら!)



 試験そっちのけで、会話に終始する圭とロハザー。



(在り得ない。一体あの子たちは試験を何だと思ってるのかしら。一度きちんと言っておかなくちゃ)



 ――そんな二人が気になって仕方ない自分を棚上たなあげし、シャノリア・ディノバーツは第二ブロックへと急ぐ。

 目に飛び込出来たのは――通常の試験ではありえない程の人だかりに囲まれた、第二ブロックの演習スペース。

 普段はさびれた市場のように人もまばらな会場は歓声と熱気であふれ、選手の出入りする空間を確保するために臨時りんじのスタッフとして風紀ふうき委員いいんが駆り出され、スペース入り口に張り付いているほどだ。

 シャノリアは先に進むことも出来ない。



(ちょ、全然見えな……観覧席かんらんせきにも行きにくいじゃない!)

「マジ? 雷精化らいせいか出たの?」

「そうそう! ホントすごいよ、あのハイエイトって人!」

精霊化せいれいかって言えば最上級さいじょうきゅう魔法まほうでしょ? やっぱグレーローブって伊達だてじゃないのね」

「でもじゃあ土属性魔法つちぞくせいまほうでそれと渡り合ってたあのイケメン君ってヤバくね? マジれるわ」

雷精・・……!?」

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