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 シャノリアの表情が変わる。

人込みをかき分け、突き破り、なんとか二人の姿を確認しようと前へ進む。

 ブロンドの髪を光らせた美女が自分を押しのけてくるとあっては、観衆かんしゅう――主に男たちだが――もヘラヘラと喜んで道をゆずり、シャノリアはあっという間に観覧席の最前列へと辿たどり着いた。



(雷精化まで出したってことは、完全に本気だったはず。なのにどうして、ハイエイト君はあんな話を――――)



『〝まいった〟』



 ――その声は、シャノリアの耳にもはっきりと届いた。



 一瞬、水を打ったように静まり返る会場。

 試合終了を告げるトルト・ザードチップの声が低く響き――ややあって、会場はどよめきの色濃いろこい歓声に包まれた。



 シャノリアがポカンとスペースを見る。

 棄権きけんを告げた声の主は、間違いなく――――一回戦をマリスタを叩きのめして勝利した、ロハザー・ハイエイト。



(ふ、風紀委員のハイエイト君が……ケイ相手に降参こうさん!?)



 瞬時に、英雄の鎧ヘロス・ラスタングを発動するシャノリア。

 くっきりと見えるようになったロハザーの表情は、どこまでも穏やかで。



 負けたような顔をしているのは、ケイ・アマセの方だった。




◆     ◆




「ロハザー!」



 呑気のんきに首などを鳴らし去っていくロハザーを、口が呼び止める。



「んだよ。こちとらクールダウンして気ィ抜けてるとこなんだ、でけー声出すんじゃ――」

「どういうつもりだお前。好き勝手しゃべり倒しておいて、挙句あげく『まいった』だと?」

「…………そうだよ。俺は、まいった」

「ふざけるな。お前はまだ余力よりょくを残している。力だって隠しているだろうが。それをっ、」

「天才クンにしちゃボケたセリフだな。こいつはアルクスの適性てきせいを見る試験なんだぜ。俺は出せる力のすべてを出し尽くした。これ以上の力は俺にとってもまだ未完成、博打ばくち領域りょういきだ。そんな戦い方をしてみろ、ガッツリ減点げんてん対象たいしょうだぞ」

「ふざけるなっ。詭弁きべんで俺を誤魔化ごまかせると――」



 肩口かたぐちから顔だけを俺に振り向かせ、笑うロハザー。

 この野郎、なんて清々しい顔を――



 ――数秒目を閉じ、手早く深呼吸を済ます。



「言いくるめるってのは気持ちイイもんだな。――試験中は、言いくるめられてばっかだったからよ」

「……何故なぜだ。あれだけ勝ちに執着していたお前が、どうして今更負けを選べる」

「…………」



 ロハザーが俺に向き直る。



「……別に大した理由じゃねえよ。ビビって戦うのはもう終わりにしようと思っただけだ」

「だからこそだろう」

「あ?」

「だからこそ、今度は自分だけのために戦えよ。このたたかいを降りる必要はなかっただろうがっ。『この次の戦いからは生まれ変わった自分で』ってことなのか知らんが、お前はどこまでいっても今のお前と地続じつづきで――」

「あーあー、説教ジジイはひっこめとけよ。俺は残念ながらケイ・アマセきょうには入信しねェぞ」

「人を揶揄からかうのも――」

「テメーが思い知らせてくれたんだぞ。大体よ」

「?…………?」

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