13



「ねこぜ」

「うっ!?」



 ――――肩甲骨けんこうこつの間辺りへの衝撃に、体が前へ飛ぶ。



 慌てて振り返ると――――そこにはお辞儀じぎの体勢のまま、黒髪の間から黒く光る目をのぞかせるヴィエルナ・キースの姿があった。



「……何なんだ。何か用か」

「別に」

「そうか。じゃあ悪い、今は話しかけないでくれるか。付き合ってられる余裕よゆうが無いんだ」

「私も無い」

「じゃなんで話しかけた。突っ込ませるないちいち面倒めんどうくさい」

「ごめん。……あ、小道具、順調じゅんちょうだから。気にしないで」

「……その件に関しては、本当にすまん。どうかしていた」

「気にしないで。『痛みの呪い』で、体調くずしてるん、でしょ。だから警備けいびもナシになった」

「……ありがとう」



 体調を崩している、か。

 もう一生積み上げられないかもしれないなんて、大層たいそうな体調もあったもの――



「私もそうなの」

「――何?」

警備けいびはずされちゃった」

「! そうか、お前も――」

「――うん。仲間です、どうも。の、あいさつ」

「……挨拶あいさつだというなら面と向かってやれよ。なんで背後から不意打つ必要がある」

「いやあ。威力いりょく、どんなもんかと、思いまして。ずつき」

何故なぜ威力を確かめる必要があるんだ……」



 と言いながら。

 俺は唐突に、ヴィエルナが、頭を使った――いな体を使わない・・・・・・攻撃こうげきの威力を確かめた理由に思い至った。

 ヴィエルナもそれが伝わったのか。

 彼女は視線を下げ、片腕かたうででもう片方の腕を静かにつかむ。



「体は……実戦で使えるレベルじゃ、ないから」

「…………そうか」

「……、ねえ」

「ん?」

「……あとで。少し、話そう?」



 無表情が、そう問いかけてくる。

 それまで荒立あらだっていた心が、ゆっくり落ち着いてくるのを感じる。



 それが理由か。

 はたまた、純粋じゅんすい知識欲ちしきよくか。



「……ああ。俺も、お前と話したくなった」



 この誘いを断ろう、という気は微塵みじんも起きなくなっていた。




◆     ◆




「……で、選んだのがここかよ」

「私達、らしくない?」

「どういう意味だよ」

「んん。……戦友?」

くな俺に」

「どう思う?」

「考える必要を感じない」

「じゃ、戦友で」

「好きにしろ」



 放課後。……もとい、夜。

 第二十三層、訓練くんれん施設しせつ、クラスの劇の準備がしてある場所に、俺とヴィエルナは「忘れ物」の名目で忍び込んでいた。



 もう深夜に差しかろうかという時間帯。

 そんな時間を指定してきた理由は、恐らく……

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