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 俺が手を上げるなどとは微塵みじんも思っていなかったのか、前に立つ「たて義勇兵ぎゆうへい」――アルクスの男性兵士が少しだけ目を見開き、名簿に目を通して俺の名を確認する。



「ええと……ああ、ケイ・アマセか」

「ああ。さっき発表された配置の中に――」

「自分の名前が入ってなかったのは何故なぜか、ってことだろ? お前ほどの奴なら分かってんじゃないのか」

「――……わかった」



 ……やはり、そうか。



 返す言葉も無く、沈黙ちんもく

 自然、周囲に並ぶ義勇兵ぎゆうへいコースの面々の視線が俺に向く。



 プレジア大魔法祭だいまほうさいに向けた、警備けいび巡回じゅんかい任務にんむの説明の場だ。

 アルクスが出張ってきているということは、当然――俺のことも、校長辺りから言いふくめられているのだろう。



 医者やリセルだけではない。

 俺が戦えないのは、最早もはや周知しゅうちの事実。



「……他にはないか?……んじゃ、今回は解散だ。明日の夕方から早速さっそく前夜祭ぜんやさいが始まる、定時ていじ連絡れんらくを欠かすんじゃないぞ」



 浅黒あさぐろの肌を持つアルクス構成員がそう告げ、義勇兵コースの者達がめいめいに散っていく。

 マリスタが、俺には見向きもせずに横を駆け抜けていった。



 ――馬鹿め。

 何か声をかけて欲しかったとでもいうのか、天瀬あませけいよ。



〝……だから、お返しに僕も君に『なぞ』を与えることにした――――ケイ・アマセ。いいや、アマセケイ・・・・・君〟



 あのときのギリートの目を、よく覚えている。

 だからこそ――劇の練習で、剣を折られた俺を見ていたギリートの目を、俺はよく覚えている。

 あの目は、



〝さようなら。圭〟



 俺に別れを告げたときのリセルの目と、酷く似ていて。



 俺は全ての希望を断たれたのだと、理解するのは容易たやすかった。



転属てんぞくは、一度だけ認められているわ。命を扱うコースだもの、そう簡単に行き来されたら困るからね〟



 ……ヘイオン・・・・への道は、はっきりと目の前にある。

 もう二度と後戻りのきかない、堕落だらく選択肢せんたくし



 きっとそこには、これ以上ないほどのヘイオンが待っているだろう。

 見ていて飽きないクラスメイト。俺をしたってくれている女子。それなりに出来ている勉強。

 就職しゅうしょくにも困るまい。どこかしら扶持ぶちはある。

 収入が安定すれば、結婚も視野に入ってくるだろうか。楽観らっかんが過ぎるかもしれないが、相手に困ることもないだろう。

 食べ、学び、遊び、眠り。

 働き、結ばれ、子をし。

 育て、愛し、愛され――そして、死ぬ。

 この世界を生きる一個の生命として、星に根付き、命を回してく。



 ――――そんなシアワセが、これでもかというほど俺を歓迎かんげいしてくれることだろう。

 俺がヘイオンを求める限り、きっと無限に。



 無限に、地獄じごく

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