14



「もう、ずっと昔のこと、みたいだね。君とここで、戦ったの」

「そうだな」



 ――そういうことだろうと思った。



「結局、お前には一度も勝てないままだった」

「ふふ。勝てるわけ、ないじゃん。二ヶ月くらいで」

「そうだな」

「それにまだ、終わってない」

「え?」

「『勝てないままだった・・・』って言った。まだ、私と君、ここにいる。戦えるよ」

「…………」



〝義勇兵コース、グレーローブ。ヴィエルナ・キース。いくよ〟



 あの時と同じ距離きょりで、向かい合う。



 知らず、自嘲じちょう気味ぎみな笑いが込み上げた。



「おかしい?」

「いいや。――もう届かないな。この距離きょりだと、俺は」

「――――私も」



 ヴィエルナが歩いてくる。

 俺も一歩ずつ前進する。



「手足の調子、どうなんだ」

「順調。もう、実技じつぎ試験しけんから三ヶ月に、なろうとしてるし」

「そうか」

「ケイは?」

「……どう答えろっていうんだ?」

「そのまま」

「……今、はかってるとこだ」



 ヴィエルナとの距離がちぢまる。



 この距離では駄目だめだろう。

 まだ遠いだろうな。

 もう少しか。

 いや、まだ危ない気がする。

 そう、ちょうど――



 ――ちょうど、伸ばせば互いの胸に手が届くような位置で、俺とヴィエルナは立ち止まった。



 黙り、ただヴィエルナの目を見る。

 彼女もまた、俺の目を見たまま何も言わない。



 そうだ。

 この距離でなければ、俺はもう――お前に、触れることさえ



 拳が目の前にあった。



「ッ!?」



 次いで微風びふう

 繰り出されたヴィエルナの右拳みぎこぶしは、鼻先をかすめんばかりの距離で寸止められていた。



 その勢いはまるで、あのときのヴィエルナのようで。



「ここまで戻すのに。三ヶ月、かかったよ」

「…………すごいよ。また戦えるのか?」

「分からない。でも……義勇兵ぎゆうへいコースをめる気は、ない」

「……そうか」

「あ、でもちょっと無理した。ピリピリする」

「馬鹿。何か手伝えることは?」

「大丈夫。そう大ごとじゃ、ないから。いきなりもげたりはしません」

「怖いことを言うなよ……」

「でも、ホントのこと。大丈夫だから――――大丈夫じゃなきゃ・・・・・・・・、ダメなの」

「ダメ?」

「――……」



 ヴィエルナが体勢をもどし、俺を見る――何やら、穴の開きそうなほどに。

 見つめられるのにはれているが……こう十秒以上見続けられるとやはり、精神的に落ち着かない。



「……どうした?」

「……やっぱり、雰囲気ふんいきだけだな、って。ナイセストに、似てるの」

「――――」

「でも……その雰囲気だけにさえすがりたくて、私……君のそばたのかもしれない」

「……お前から出るとは思えない言葉だな。『すがる』だなんて」

「…………」



 ヴィエルナが、俺の目を遠く・・、見つめる。



「……好きだった。私、ナイセストが。きっと」

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