15

「……自分の気持ちだろ。何だよ『きっと』って」

「ひとつも、言葉にしなかったから。気持ち、見つからないの。はっきりと、見えないの。もう」

「…………」

「でも、ケイはここにいる。手、伸ばせばさわれる。こうして呼吸も、感じられる。」



 ヴィエルナの手が俺のほおで、指先を口元にめる。

 何故か無性にむずがゆく、それでいて柔らかで――――非常にマズいのに、どうしても足は動かなかった。



「お……おい、」

「だからわかる……私、君にナイセストを重ねてた。ナイセストみたいに一人で、どこか遠くに行ってしまいそうな君を……ナイセストの代わりに、つなぎとめておこうとした」

「…………」



〝――私、君が測れなくて、怖い〟

〝私は無茶するあなた……また、止めるね。今度は本気の本気で。私がそうしたいんだから、止められないでしょ?〟



〝知っていたさ、そんなこと。お前が俺をしたっていることも。俺を変えたいと願っていたことも。そして……お前がそれを諦めていたこともだ、ヴィエルナ〟



 ナイセストを変えることは出来ないと諦め。

 奴と似ていた俺を、変えようとした。

 それは確かに、自己満足もいいところなのだろう。

 でも。



「あなたを止める、なんて言いながら、本当に止めたかったのはきっとナイセストだった。でも出来なかった。だからあなた、見て、次こそは、って……」

「どうでもいい」

「っ?」

「どうでもいい、そんなこと。誰かの自分探しに付き合ってられるほどひまじゃないんだ、どういうつもりで接していようが俺が知るかよ。……それにな、利用はおたがい様なんだよ」

「え……」

「要は俺を利用してたんだろ。俺も同じだ。お前を、マリスタを、プレジアを自分の目的の為に利用している。大体突き詰めて考えれば、誰かと接するときは皆何かしら相手を利用してるものだろ。そこに貴賤きせんを設けようって考え自体がナンセンスだ」

「……つまり気にしなくていいよ、って。こと?」

「…………悪かったな、解り辛くて」

「…………ありがとう」

「礼を言いたいのはこっちだよ」

「え?」

「俺が今、これだけの力を得てここに立っているのはお前がいたからだ、ヴィエルナ。お前がずっと俺の前を走ってくれたから、俺との鍛錬たんれんに付き合ってくれたから、俺は今こうして、お前の前に居る。お前がいなければ、俺はとっくに潰れてたかもしれない」

「…………」

「お前が俺に近づいたことにどんな理由があったにせよ、おかげで強くなれたのはまぎれもない事実だ。感謝こそすれ恨む道理は毛ほども無い。どうでもいいんだ、お前の事情なんざ。だから罪悪感なんぞ感じるな」

「…………ふふ。ふふふ」

「何だよ」

「別に。べつにぃ、ぃぃ」



 …………にこやかに笑いやがる。



「君は。義勇兵ぎゆへいコース、めるの?」

「……そう見えるか?」

「……うん。悪いけど。あの場から戻ったら、もう帰ってきそうにないな、と思った」

「…………そんなに覇気はき無かったか、俺」

「うん。思わず頭突きしたくなる、くらいには」

「それが理由かよ」

「君、思ってるより顔とか体に出てるからね、気持ち。もっと気、配った方がよろしいぞ」

「努力するよ」

「うん。努力して? 私も、頑張るから」

「? どういう意味だ」

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