16

「……私は君にも、ナイセストにも、向き合えてなかった。逃げて逃げて、今の私なの。だから今度、ちゃんと、向き合って強くなりたい。みんなと。自分と。強くなった、君と」



 ヴィエルナが手を伸ばし――俺のグリーンローブの胸部分を、はかなつかむ。



「だから、いなくなっちゃうのはイヤだよ。ずっとここに居て、ケイ」



 …………システィーナにも言ったが。



 どうしてお前たちは、そう、言い方に、気を配らん、のだ。



「? 顔赤い」

やかましいいまだまれっ。ったく、お前の真面目まじめ精神せいしん衛生えいせいじょう悪い――――いや、俺も大概たいがいだが」

「?」

「…………、は」



 一呼吸し、気息きそくを整え――こたえる。



「――居なくなんてならないさ。今決めた」

「今、って」

「ダメなんだ、俺の身体。呪いの力に、思った以上に参ってしまっているようでな――――全部捨てて逃げようかって、何度も思った。お笑いだよな。知らなかった、こんなに自分がもろかったなんて」

「……ケイ」

「でも変えられなかった。全部捨てるか、それとも全部捨てる・・・・・か。そんな選択肢せんたくししか残されてないんだとしか、考えられなくて。俺は……」



〝俺は、俺はこんなに――――強くなったのにっ!〟



「……俺はまだまだ弱い。だから……俺、またお前に憧れていいかな。お前の言葉を、姿勢を胸に、また背中を追いかけてもいいだろうか。俺――――」



 温かで、優しい香りが俺を包む。



「――――っっ、」



 ヴィエルナは、俺の頭を両手で抱えるようにして――――俺を抱きせたのだ。



「ヴィっ――エルナ、おま」

「ダメ。それは、だめ」

駄目だめ?」

「言ったでしょ。今度は私が、おう・・番だって。背中を追いかけるの、許さない。でも……こうして横で、肩なら、貸してあげる。君が歩けなくなったなら、何度でも、何度でも――私が歩けなく・・・・なったとき、私の先を歩いてくれた君だから」

「…………」

「追わなくて、いいよ。一緒に歩こう、ケイ」

「…………ハッ。『肩を並べる』ってことか?」

「…………ふふ。うまいでしょ」

「何がだよ、バカ」



 左手で、ヴィエルナの頭を力無くでる。



 本当に、変な奴だ。



「……なあ、ヴィエルナ」

「ん?」

「俺、お前が心底好きかもしれん」

「……ふふ。私も、そうかも。しれん」

「いやぁ。なんかすごいとこ見ちゃったなぁ。うわうわうわ。これちょっと流石さすが動揺どうようしさ過ぎて声出ちゃったなぁこれ」



 ……しかめた顔を見合わせ、ヴィエルナと共に振り返る。



 歩いてきていたのは、予想通り――――相変わらずのトレーナーパジャマ姿のギリート・イグニトリオ。



「ナタリーみたいに趣味しゅみが悪いな。ずっと聞いてたのか」

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