　少年は考える。

　一体、どんな交流がなされて、何を思って、ヴィエルナ・キースは自分と戦おうとしているのだろうかと。

（鞍替（くらが）え。陰謀（いんぼう）。衝動。自暴自棄（じぼうじき）。……――違う。ヴィエルナ・キースという女が俺に牙を剥（む）く理由にしてはどれも、低俗（ていぞく）に過ぎる）

　その評価は特別では無い。

　ナイセスト・ティアルバーは自分の身の回りにいる者全てを、常に相応に（・・・）評価し続けているだけだ。

　そこには馴（な）れ合いも不正もない。

　品格、実力、家柄（いえがら）、それらを内包（ないほう）した人格――すべてを評（ひょう）し、役職（やくしょく）を与え、権威（ちから）を与え、そして――責任を求めた。

　期待故（ゆえ）、ではない。

　彼等（かれら）が持ち得た何もかもは、彼等（かれら）個々人（ここじん）の力に見合う正当な結果であり、ナイセストにとってはそれ以上の意味もそれ以下の意味も持たない。

　強い者が弱い者を支配する。

　古来よりヒトを縛（しば）り続ける、単純（たんじゅん）にして明快（めいかい）なる天測（てんそく）。

　逃れられない力学（りきがく）。

　だから、少年はずっと不思議だった。

　ヒトを掴（つか）んで離さぬ自明（じめい）の不文律（ふぶんりつ）に沿（そ）い、持つべき力を持てと話すだけなのに――――

〝ナイセストさん（・・）！〟

〝お待ちしてました！〟

　奴等（やつら）は、何故（なにゆえ）この身に「信用（シンヨウ）」などという曖昧（あいまい）を、「羨望（センボウ）」などという無用を感じ、いつの間にか下僕（げぼく）のような立ち居振る舞いを始めるのだろう、と。

　ナイセストは、ただの（・・・）ティアルバーだ。

　四大貴族の一（いち）。格で言えばマリスタ・アルテアスと何ら変わりない。

　王でもなければ、神でもない。

　だからこそ。こぞって自分を持ち上げ、何かとお墨付（すみつ）きを貰（もら）いたがる風紀委員の面々（めんめん）を、ナイセストは理解すれども共感など欠片も抱けなかった。

　無論、それを咎（とが）めることもない。

　虚（むな）しき王座に着くこともない。

　近しい者や功労者（こうろうしゃ）を重用（ちょうよう）することもない。

　期待、信用。絆（きずな）。

ヒトの生み出した幻惑（げんわく）など、太陽は関知しない。

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