第36話 暗中模索も前進のひとつ

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「――――では、これで連絡は以上です。今日から大魔法祭だいまほうさいが始まり、児童の監督かんとくに危機への警戒にと多大な苦労をおかけしますが、どうぞ指示通りに連携れんけいして動いていただくよう、よろしくお願いします。それでは連絡会を終わります」



 クリクターの終わりの合図で、張り詰めた空気が解けるプレジア第四層、職員室。

 早朝の薄ぼんやりとした空気を振り払うごとく、いの一番にガタンと立ち上がるシャノリア。彼女は黒ローブをひるがえし、いち早く当事者ら・・・・の待つ訓練施設くんれんしせつへ向かおうと職員室を出て、



「心配ですよね」

「!」



 同じく転移てんい魔法陣まほうじんに乗ってきたサイファス・エルジオと並ぶ形になった。



「エルジオ先生」

「覚えていただいたんですね、光栄です」

「……エルジオ先生は、昨日そんな・・・気配を感じましたか? その、誰かが襲われている、といったような」



 不安げな目でサイファスを見るシャノリア。

 サイファスはその目を一瞥いちべつし、遠くを見るように目を細めた。



「いいえ。僕自身は、何も」

「ぼ。僕自身は?」

「はい。それを今から確かめに行くところです。たぶん、行先はディノバーツ先生と同じですよ」

「え」



 シャノリアの困惑に気付かず、サイファスは予感する。



(マリスタは、俺が見失ってしまうような勢いで駆けていった。もしかすると、あいつは……何か、今回の件に絡む「騒動そうどう」を目撃したんじゃないか? そうだとしたら……あいつのことだ、きっと今回の事件にもガンガン首を突っ込んでいくに違いない)



「俺、本当はまだ納得できていないんです」

「納得、って」

「確かに、義勇兵コースの子たちは戦う力を持っています。でもあくまで、彼らは学生でしょう。未来のアルクスの、プレジアのために守られるべき子ども達じゃないですか。それを校長は、まるでプレジアの戦力の一端いったんになっているかのような言い方を――」

「はい。校長先生はきっと分かっておられると思います」

「え?」

「でも私達教師には万が一、このプレジア全体を巻き込んだ騒動が起こったときに――――無関係な人達、特に義勇兵コース以外の児童や学生たちを無事に導く義務ぎむもある。難しい判断だったと思いますが……主に戦いに特化した義勇兵コースの子ども達よりも、私達の方が子供たちの実情に沿った避難をうながせる」

「…………確かに、そうですね」

「……ふふ。そんなこと言って、どっちも・・・・ゆずる気ないですけどね、私」

「え」



 シャノリアの足が速くなる。

 慌てて付いていくサイファス。



「で――――ディノバーツ先生?」

「いたいけな子どもを襲った罪……どうつぐなわせてやろうかって思いませんか? エルジオ先生っ」

「あ、えっと俺は」

「思いませんか!?!」

「思います!」

「そうでしょう! 許してなるもんですか絶対に――絶対にこの手で見つけ出して、一人残らずゴボゴボにしてやるんですから……!!!」

(ゴボゴボ……?!)

「だから、私もそれを確かめに行くんです。きっと情報を持っているであろう子どもに、一人だけ心当たりがあるので」

「え、それって――あの、先生?――」



 ボルテージを上げていくシャノリア。

 鼻息の荒いブロンドの魔術師を、サイファスはたじたじと追いかけていった。

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