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 俺はその手を数秒ながめて――――わざとらしく周囲を見回した。



 マリスタの姿は見当たらない。ついでに知り合いも居ない。

 つまり――――切り捨て時だ。



 たたけろ。



「マリスタは居ないようだ。お前と恋人の振りをする理由は無いな」

「っ…………」



 背を向け、少女を放って会場を出る。

 予想通り、背後から迫ってくるけ足の音。



「――――妬いてるってわかってるならどうにかしてよ私の気持ちっ!」



 今まで聞いた中で、一番大きな少女の声。

 外野の視線が集まる。いいぞ、今こそ見届けろ。



「そこまで解ってるならっ――少しは気持ちをんでくれたって、」

「下らないことを言うな。俺はお前と、むにまれず『恋人ごっこ』をしていただけだ。お前の気持ちを汲む義理も義務も何一つ無いだろうが。一人舞い上がって勘違かんちがいを重ねるな。痛い・・ぞお前」

「…………!!」



 ……少女が、固まった。


                        私とそっくりね。     あなたはお     母さんと同じ黙れ。



 ――黙れ。

 今ザワつくな。



 さあ、お前の夢も冷め・・時だ。

 幻滅げんめつし、傷付きずつくして俺から離れていけ、パールゥ・フォン。



                              いいえ。お母さんより      も大きい、大きい優し       さを持っている


「……いい加減グダグダと付きまとうのは止めてハッキリしろ。好きなんだろう、俺のことが」




◆     ◆




「やっと気が付いた?」

「き、気は最初から付いてましたとも……」

「嘘つけ。すっかりライブに魅了されて夢の中だったくせに」

「それは否定できないけど……ねぇサイファス、私達ってケ――パールゥ達より先に会場出た?」

「ついさっきのことも覚えてないのかよ……ああそうだよ。俺達は彼らより先に出た」

「そ、そっか……」

「……それにしてもすごかったよ、あのライブ。まだ興奮冷めやらない感じだ。改めて、誘ってくれてありがとな。マリスタ」

「い、いいってことよ。なはは」

「…………なあ、マリスタ。お前」

「!」

「――――どうした?」

「――ちょっとごめんっ!」

「っ!? お、おいマリスタどこに――――マリスタ!」




◆     ◆




「ッ!?」

「きゃっ!?」



 ――――背中を、いつぞやの頭突きにも負けない力が貫い、てきた。



 痛みにり、今まさに修羅場しゅらばな少女に真正面から突っ込んでしまう。

 柔らかさをあわてて押しのけ振り向いた。



「っ――――、一体なん、」

「たっ……助けてください!! 追われてるんです!!」

「なッ」



 振り向いた俺にしがみ付いてくる背の低い――――割に、深い谷間と弾力を感じさせる胸を持つ少女。

 金のショートヘアを振り乱しながら、彼女は俺に抱き着いたままでまだ痛みの残る背後に回り込んできた。

 正面には、



 ――正面には、フードを目深まぶかかぶって顔の見えない、黒装束くろしょうぞくの姿。



 そいつは脇目わきめも振らず、また周りの客の迷惑すら歯牙しがにもかけぬ様子で、真っ直ぐに俺達――いな、少女に向かって突っ込んでくる。



「殺されるッ!! 助けてっ!!」

「こ、殺されッ――――!?」

「ッ――――こい!」

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