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 少女の手を取り、走り出す。



「ちょ――――ケイ君っ!?」



 パールゥの声が遠ざかる。

 黒装束の気配はこちらに近づいてくる。



「人気の多いところに出て助けを呼んでくれッ!」



 叫びながら――英雄の鎧ヘロス・ラスタングを発動。できた。



「きゃあっ!?」



 少女を抱きかかえ、ライブステージの上へと着地する。

 とにかく人海じんかいまぎれてしまうことだ。そうすれば向こうもそう手出しは出来なくなる。

ここから盾の砲手エスクドバレット瞬転ラピド飛び移って行けば容易よういに――――



 ――――出来るのか、今の俺に。



「ッッ!?」



 その躊躇ちゅうちょ明暗めいあんを分けた。



 進行方向に現れるフードの追手おって

 方向転換も間に合わない。

 黒い手が動き――――右腰みぎこしにある剣の柄に手をかけ、



 ――――――剣、だと?



〝殺されるッ!! 助けてっ!!〟



「でやぁああああっっ!!」



 抜刀ばっとう一閃いっせん



 俺の喉元のどもと、或いは少女の頭部へと真っ直ぐにひらめいた剣を持った腕を、き通った水の棒・・・が打ち抜いた。



「ま――マリスた゛ぁ゛ッ!!?」

「きゃっ……!」



 喉がひねつぶされる。たまらず少女を腕から落とす。

 左腕を外にはらった力に従い、空の右手を突き出した黒装束くろしょうぞくが俺の首をつかみ上げたのだ。



 視界。少女はなんとか離れている。



 氷弾の砲手アイスバレット



「!」



 眼前にあらわした氷弾ひょうだん炸裂さくれつし、視界が白に染まる。



 凍気とうきの爆風が黒装束を後退させ、俺は顔半分を凍結とうけつされながら投げ出されるようにしてその場に着地し――瞬転ラピド

 奴の横を抜け、なんとか少女の前へと移動した。



 同時、マリスタが俺の対面、黒装束をはさむように降り立つ。

 二対一の状況を察知してか、黒の剣士は動きを止めた。



「大丈夫なのケイッ!」

「余計な口を叩くなッ! ひとまず人混ひとごみにまぎれるのは駄目だめだ!」

「ど……どうして」

「死人が出るッ!」

「!!?」

「間違いない、こいつは本気で俺達を――――ッッ!?」



 さやが目の前。



 黒が右手で投げたのであろうさやあわてて弾く。

 その時にはすでに、黒はマリスタに得物を向け迫っていた。



「早――――兵装の盾アルメス・クードッ、」



 マリスタが物理障壁ぶつりしょうへきを展開し、



 黒の剣が、あっさりとそれを突き破る。



「――――え」

「――――」



 黒の肩の向こうで、とす、と。



 剣尖けんせんが、音も無くマリスタの左胸ひだりむねに突き入った。



「――テm……あ゛ぁ゛ッッ!!!」



 それがスイッチであったかのように、頭にバヂンと呪い電流が走る。



 神経を引き千切ちぎるような痛みに、思い切り前のめりに目を閉じてしまい。

 俺は無様に、黒の足元にうずくまった。



「く……そッ……ッッ!!! っあァ!――――あ……!!!」



 ひたいの上を黒の爪先つまさきり抜き、半回転した体が後頭部をかたい床にいざなう。

したたか打ち付けられた脳がれ、視界が一瞬かすんだ。



 しかし意識を閉じるわけにはいかない。閉じられる訳が無い。

 今、俺の目の前には――――向けた背から黒い刃を突き出している、マリスタの背があるのだから。



「マ……マリ、」

まだ心臓は傷付けてい・・・・・・・・・・ません・・・

「!、?」



 ぐったりとしたマリスタの背の向こうから、女の声がする。



「大人しくあきらめてください。さわぎになるのはあなたも望まないでしょう」

「な……何を言って、」

「止めにしましょう、このような危険な遊び・・は。王女様・・・

「!!!? お――――」

「あーあ、ザコ・・つかまされたなぁ。クソおもしろくもねーの」

「!!!?!?」



〝助けてください!!〟



 ――頭にあった印象イメージとあまりにもかけ離れた声に、思わず背後を振りあおいでしまう。



 そこにいるのは先程の少女。

 侮蔑ぶべつしか宿らぬ目で俺を見下ろす、



「分かったわよ。もういいから早くしまい・・・なさい、そのブッソーなの」



 王女様と、呼ばれた女。



「はい」



 にぶい、肉をく音と共に。

 血濡れたが、血のを描いて引き抜かれた。

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