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「鼻水をけよ……だらしがない」

「ち゛ーん゛」

「って俺のローブでくなってバカ!! 昔からクセだなそれ!!」

「リリスち゛ゃん゛す゛き゛~~~~~!!!!」

「……聞こえてないな、こりゃ」



 ……だが、どうしてだ。

 確かに奴はリリスティア・キスキルなのだろう。

 だがふざけるな。あそこまで妹に似た別人が存在してたまるか。



 何が起きている。

 どうして奴が愛依そっくりな姿をしてやがるんだ。

 冗談にしても笑えないぞ、神よ。こうして冷静さを取り戻した今だからこそ、改めて殺意を覚える。

 当たり前だろうが。一体全体、お前は俺に、



〝一人だけ生き残ったらしいわよ。かわいそうに〟



 ――俺に、どれだけ残酷ざんこくな幻を見せているのかわかっているのか。



「ケイ君」



 リセルだ。

 あの魔女まじょなら、きっと何かを知っているに違いない。

 こうなれば形振なりふり構ってなどいられない、今ぐにでも――



〝お前はあの時・・・と一緒で、こんなにも弱い〟



 …………駄目だめ元々もともとだ。

 きっとパーチェやつは一瞬たりともリセルとして俺に接することは無いだろう。だがそれでも、奴の反応から何かしらつかめるかもしれない。



 ……厄介事やっかいごとが増えていく。

 呪いのこと、愛依のこと、ギリートのこと、リセルのこと、劇のこと、パールゥのこと。

 流石さすがの俺でも頭がどうにかなってしまいそうだ。人間関係のこととなると尚更なおさら。数学がしたい。



 ……頼むから。

 頼むから、これ以上、増えてくれるなよ。



「――ケイ君。ケイ君ってば!」

「……なんだ」

「なんだじゃないでしょ……ライブ、終わったよ。ここ出ないと」

「ああ…………、マリスタは?」

「……とっくに出たよ、婚約者こんやくしゃに連れられて」

「…………」



 ……こいつ、よっぽどマリスタを俺から遠ざけたいのだろうな。婚約者って。いや許嫁いいなずけという間柄がどういうものかはよく知らないが。

 ともあれ、参った。

 結局、ここに来た最大の目的さえ果たせずじまいとは。



 ……厄介事が起こり過ぎて、この後がすっかりノープランだ。

 かと言って、すごすごと帰宅したところで勉学に集中出来そうもない。



 ……少しでも、このモヤモヤを解消した方がいいだろうか。

 愛依めい――――でなく、リリスティア・キスキルなら、きっとまだ会場周辺に居るはずだ。彼女から少しでも素性や情報を引き出しておけば、多少は気持ちも落ち着くかも――――



「……リリスちゃんならすぐ帰っちゃったからね」

「!……え、」

「会場の片付けは明日以降、リリスちゃん以外でやるの。ケイみたいな熱心なファンが移動中のリリスちゃんに殺到さっとうするから、人目に付く所からはすぐいなくなっちゃうんだよ」

「芸能人かよ……というか、人の思考を読むな」

「やっぱりリリスちゃんのこと考えてたんだね。マリスタの次はリリスちゃんかぁ、へーそうですかっ。じゃあその次はキースさんかなっ」

「……くな面倒臭い」

「………………んっ!」



 赤らめた頬のまま、俺をにらみながら手を差し出してくるパールゥ。

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