12



 マリスタが口をすべらせる。

 その声はあっという間に医務室に広がり――――やがて貴族達の視線は、義勇兵コースの数少ない「平民」達に集中する。

 ビージがギロリと振り向いた。



「……『平民』りの次は貴族狩り・・・・ってか。復讐ふくしゅうのつもりか? どこのどいつだッ……!!!」



 急に沢山の目にさらされたアトロ・バンテラスが目を見開く。



「な――お、おい。まさかあんたら、このおよんでまた俺達を疑うのか!?」

「可能性が無いとは言えないだろうがッ! こんだけやられてて全員貴族だぞ、明らかに狙って襲われ――」

「黙れビージ!」



 聞いたことのない大声に面食めんくらううビージ。

 叫んだのは、彼の真横に居たチェニクだった。



「チ……チェニク」

「君の言う通りだよ、ビージ。『平民』達による報復、その可能性が無いとは言えない。でもそれだけだ」

「……っ」

「魔石の出所でどころと同じ。いくつかある可能性の一つだよ。決めてかかって怒ったって事態は前に進まない。あのときも・・・・・そうだったろ?」

「…………!」



 ――ふるえる拳でひざを叩き、ビージが座り込む。

 チェニクが大きく息を吐いた。

 その息にマリスタも続いた。



「それに、なぞはまだあるよね」



 静まり返った場に、場違いなほどけんの抜けた声が通る。

 声の主は、パーチェの真正面の壁に背をあずけていた茶髪――ギリート・イグニトリオ。



「謎?」

「ええ、謎です。確かに襲われているのは貴族。でもやけに多くないですか。風紀委員ふうきいいんが」

「!」

『…………』



 ……どうやら、風紀の者達はある程度感付いていたようだ。



 そう。今ここで倒れている者達は、一人を除いて全て風紀委員。

 一時期頻繁ひんぱん罵倒ばとうされていたからか、よく覚えている顔触かおぶればかりだ。

 敵が風紀委員だけを狙っていた可能性は非常に大きい。



 だが、だからこそ。



「じゃ、じゃあやっぱり『平民』が……?」

「ちょっと待ってください生徒会長! それだけで『平民』が犯人だと決めつけるのはあまりに――」

「落ち着いて、セイカードさん。僕は被害者に風紀委員が多いって言っただけで、『平民』が犯人だとは言ってない。まずはかたの力抜いてこうよ、お互いにさ。僕らは今、同じ一つの事件を追いかける仲間なんだから」

「っ――――」



 ドレッドヘアを小さく振り乱しながら話していたケイミーが、何か言いたそうに押し黙る。

 アトロが小さくうなずきながら、心配そうに彼女を見た。



「それに、そうなると逆に気になることがある」



 場が落ち着きを取り戻したのを見計らって口を開く校長、クリクター・オース。



「校長先生? 逆にって、」

「被害にあった風紀委員の数に注目したからこそ、見えてきたのですが。……なぜこの子――風紀委員ではないシータ・メルディネスは襲われたのでしょう?」

『!』

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