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 ――口を滑らせかけたパールゥに、マリスタら襲撃者の存在を知っている者達が体を強張こわばらせる。

しかし、それは一瞬で済んだ。とっさに割って入ったロハザーが、パールゥの口を塞いだからである。



「え?」「何?」「ねえ、フォンさん今なんて――」

「ッ……ビージ!」

「お、俺かっ……!? わ、わかったっ」



 ビージが加勢し、突然押さえ込まれて無茶苦茶に暴れ叫ぶパールゥを演習スペースの外へと連れていく。

 ただごとではない様子に、生徒たちはにわかにざわめきだした。



「――――っ劇はどうなるんですかッ! 先生っ!!」



 システィーナが、場を取り繕うように核心に触れる。

 騒いでいた面々が一様に黙り込み、シャノリアへと視線を注いだ。

 青ざめた顔で目線をさ迷わせたシャノリアが――諦めたように、告げる。



「…………劇は、中止です。上演不可能よ」




◆     ◆




「ッ……あのなぁアンタ!! 例の話・・・を大勢の前で口にするのは厳禁だって散々言われただろうがッ!!」

「触らないでッ!!!!! いやぁッ!! やめてっ!!!!」

「話を――」

仮初の就縛パティゲルト

「っ!!? あっ――!」



 ビキリ、と腕を後ろ手に拘束された体勢になったパールゥが、ロハザーの腕に抱えられて床に横たえられる。

 動かなくなった両腕の代わりとばかりに、彼女はロハザーの足を思い切りとばした。



「だから落ち着けっつってんだろがンの馬鹿がッッ!!!!」

「っ――、」



 怒号どごうひるむパールゥ。冷静な顔つきで彼女をにらんだまま、強く蹴られた足の痛みなど一顧いっこだにもせず、ロハザーは姿勢を変えてパールゥを見下ろした。



「――マジで自重しろ、パールゥ・フォン。あんたのその一言が、内戦の引き金にだってなりかねねぇ状況ってことを理解しろよ。何でもかんでもケイ君ケイ君ってえてんじゃねえ」

「あなたは何も知らないの?」

「人の話を聞け。どこでもここでも食ってかかるのをやめろ」

「ケイ君は無事かって聞いてるの!!!」

「返事をしろ!!」

「あなた達がやったんじゃないでしょうね!!?――この貴族クラブッ!!!」

「返事を――」



 ロハザーの言葉を、場の紛糾ふんきゅうに似合わない穏やかな音がさえぎる。

 突然の校内放送に、ビージも天井の一角にある拡声魔石かくせいませきを見る。



「――――放送?」

『〝風紀委員ふうきいいん、そして義勇兵ぎゆうへいコースの面々に告ぐ。至急、二十二層調練場に集まれ。繰り返す、風紀委員と義勇兵コースの者は全て、至急二十二層調練場に集まれ。以上〟』

「……な、なあロハザー。今の声」

「ああ……たぶんアルクスのバルトビアさんだろ。帰ってきてくれたのか」



 声色に希望をにじませながらも、仕方なくパールゥの拘束こうそくを解くロハザー。

 ずれていた眼鏡を直し、射抜いぬかんばかりに彼をにらみ付ける少女を見もせず、ロハザーは足早に立ち去った。



 アルクス兵士長の帰還。

 それはロハザーにとって――いな、襲撃者に頭を悩ませていた風紀委員と義勇兵コースの面々にとっても、まさに一条いちじょうの光となる知らせだった。



 単なる戦闘だけでない、「戦い」のエキスパート。

 彼らが居れば、襲撃者を力で上回ることも可能かもしれない。そしてそうなれば、考え得る策の幅も大いに広がるのだ。



 生徒の誰もも、ガイツの到着を歓迎かんげいしていた。



 彼の口から、その言葉が飛び出すまでは。

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