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 ゼタンの放った宣戦布告――「我をたおすチャンスをやろう」。

 そのあまりにも建前たてまえな誘いに、クローネはただ一人応じる。



「……貴様一人でか? こうは言いたくないが、玉砕ぎょくさいなどという考えは美しく――」

白々しらじらしいんだよ。お前の目的は皆解ってるんだ、今更下手に取りつくろうな」

「――そうか。ではその他下々しもじも精々せいぜい指をくわえて見ているがいい。貴様等唯一の頼みの綱が、ぐちゃぐちゃに引き裂かれるのを」

「な――何だと!!」



 アトロ演じる兵士がいきり立つが、それ以上何も言えない。

 ゼタンは三柱さんにんの中で最強の神だ。

 そして実力はもとより、自分の存在理由にどこまでも忠実で――人間の意志力を最大限集めることだけしか考えていないこの神が、機神きしんディオデラを本当に使わない保証はどこにもないのだ。



 力無きがゆえ、本来なら黙るしかない。

 最早この神に言葉を投げかけられるのは、騎士クローネのみなのだ。



ちりも残らぬよう、丁寧に丁寧につぶしてやるから覚悟しておくことだ。そうしてすべての希望がついえた真の絶望の中で、泣きながら、わめきながら、狂いながら――人間と生まれた己の運命と、貴様等を人間などに産み落とした親を呪って死んでいけ。塵屑ゴミクズ共」

「――――――――ゼタァァァァァン――――!!!」

「やめろよゼタン。思っても無いことを・・・・・・・・・喋るな・・・



 剣に手をけかけた兵士をクローネが制し、ゼタンの眼前に立つ。



 ゼタンが、初めてニンマリと笑った。



「……そう言うな。こうした方がよく育つ・・・・・・・・・・のだ、貴様等は・・・・・・・




◆     ◆




 こうして、場面はユニアとクローネの別れのシーンへと移行する。

 散々練習しただけあって、情感たっぷりに演じられているのではなかろうかと思う。



 しかし、改めて見てみても……この『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』には、所々示唆的しさてきな描写が含まれている、気がする。



 魔女と交わす「契約」は今にも存在するし、神プデスとクヲンが使った「化身けしん」とは恐らく、実技試験じつぎしけんでロハザーが使っていた「雷光の憑代ライナー・ミュース」のような――精霊化せいれいか魔法のことを言っているのだと思われる。

 魔法生物学の知識によれば、存在そのものが魔力である精霊には、魔素まそかいしたものでしか触れることさえ出来ないという。



 神がせっせと集めている人間の意志力。これは言うまでも無く人間の「精神力」のことだ。

 精神力は魔力を倍増、いやそれ以上に高める力を秘めている。

 だからこそ、マリスタの激情に合わせて魔波まはは吹き荒れるし、尽きた力が意志の力で息を吹き返す、なんて現象を俺も体感してきた。



 ――では、他の要素も何かを示しているのか?

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