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「っ?!」



 ――――アヤメのそれとは別種の悪寒が、背筋を分け入って心臓をつかむ。



 ココウェルと共に投げた視線。

 その先には、小さく見開いた目で無表情にこちらを見つめる、パールゥ・フォン。



 …………嘘でしょう、神様。



 吹いてもいない風に桃色の前髪を揺らし、その奥で光る瞳がココウェルを――その豊満な胸に挟まれた俺の腕に向けられる。

 いかん。下手を打てば俺の作戦が瓦解がかいするまで考えられる。

 ど――――どうにか火を消さねば。



「ねえケイ。あれ誰」

「だ――誰でもないです」

「あなたこそどなたです? 初対面の男の子にべたべたくっついてはしたない」

「――――なんなのお前その口の利き方ッ! あんたこそ初対面の相手に無礼でしょ謝りなさいッ!」

「ケイ君もだよっ! 誰なのその子、マリスタみたいな関係の人!?」

「違う違う違う、違う。落ち着くんだパールゥ。この子はその、」

「あっ、マリスタって例の赤髪の名前でしょ!? マリスタみたいな関係って何よケイ、やっぱお前とアレ特別な関係なんじゃないの!? ちょっとそこのメガネ! 知ってることを吐きなさい!」

「あなた初対面の人への接し方も知らないの? 野蛮やばんな子と一緒に居るんだねケイ君っ。服も下品だしっ」

「や――やめろ、ぱーる」

「下品ってなんだお前ッ!! ビボーをフルに活かした服着てるだけよこっちはっ! はっ、お前みたいなどこもかしこも貧相なネクラいんキャクソメガネには理解が及ばないでしょうけどねっ!!?!?」

「ひっ――?!」

よどみなく罵倒ばとうの言葉を並べるなココウェル! とにかくここを離れ――」



 パシャリ。

 ……と、覚えのあるフラッシュがかれる。



 …………なんで 貴様まで ?



「…………『たら数股すうまた男、年貢の納め時! 白昼の修羅場しゅらば!』。あややァん、なんて甘美かんびな響きの見出しでしょう。これは号外をらねばですねぇ」

「ナ、タリー……!!!」

「うっわまた別の女来た! ケイあんたまさか」

「ナタリー……どうしてあなたがここにっ」

「どうしてって、私はただ報道委員ほうどういいんとしての本分ほんぶんを果たしていたまでですが? 自覚無いなら教えてあげますがお三方さんかた……自分たちが天下の往来ド真ん中で仲良く痴話ちわってるの、ちゃんと理解してます?」

『!!!』



「ねえ、あれアマセくんだよね」「お、おう……前回の実技試験でティアルバーを追放した……」「モテてるのは知ってたけど、こんな真昼間から修羅場なんてね……」「クソウケんだけど」「俺友達呼んでくるわ」「みてあっちの子、めっちゃエロいカッコしてない?!」「うっわ、あっざとい……そりゃイケメンも形無しか」「アマセ君カッコい~」「あんなカワイイ子プレジアにいたっけ?」「アマセの野郎、ちょっと顔が良くて実技でティアルバーをったからって……」「いやそれ最強じゃん」「あっちの子ってさあ、図書委員の……」「私さっきアマセ君にムネ見られてたの!! それからそんなに時間も経ってないのに!」「モテる男はやることが違うわね……でも絶対いつか刺されるよねアレね」「刺されろ……死ね……」「呪詛じゅそ送るなって」「え、あの痴話ゲンカ私も混ざろっかな~ケイ君FC《ファンクラブ》の一員として!」「バッカ言わないの。私達ケイ・アマセFCの鉄の掟忘れたの!? 抜け駆けはナシ!」「おいこっち来てみろよ、そこらのアトラクションよりおもれー見世物みせものやってんぞ!」



 ……マズい。非常に、マズい。

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