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 確かに男として、女として生まれ、応じた性自覚を持つのであれば、異性に対して生理的に魅力を感じるようにはできているだろう。それは人間である以上、外して語ることの出来ないシステムではある。



〝私は、あんたの友達になりたい〟


〝俺、お前が心底好きかもしれん〟

〝……ふふ。私も、そうかも。しれん〟



 だが、システムを超えたところに何かを見出すからこそ、人間は他生物とは一線をかくすのだ。

 恋愛だけで結ばれる男女もいれば、友愛だけでつながる男女もある。あっていい。

 結局大切なのは、それら在り方を自分で決定することだろう。

 その意味では――ココウェルの主張は、そしてやたら主張の激しいその出で立ちは、彼女がどうしようもなく、人間本来の在り方に忠実な証拠しょうこ、なのかもしれない。



 野性的なかんのある、欲に正直な、女性。



 それが、ココウェル・ミファ・リシディアという人間か。



 ……よし。

 大分だいぶ頭のもやが晴れてきた。



「その点、あんたは幸運だったわねケイ。なんたってあんたが見初みそめた女は――――病気持ちのあんたを優しく受け入れるだけの広いひろーーーーい器を持った一国の王女! 安心しなさいケイ、わたしは祭りの間中ずーっとあんたと一緒に居てあげてもいいわよ! その代わり、わたしの言うことには絶対服従ぜったいふくじゅうね!」

「断ります」

「ッ?! な――なんでよ!? わたしがこれだけ受け入れてあげるっていってあげてるのに――あっ、やっぱりあの赤毛のクソ女か! 彼女なんでしょアレ!?」

「違います」

「だって思い返してみたらお前っ、アレがアヤメにやられたときめっちゃ心配そうにしてたじゃん、ああそうだ! 心配してたお前あいつを!」

「敵でもない以上一人の人間として当然の行動です。そして俺が一緒に居るのを断った理由は別にあります」

「じゃどうしてよっ! こんなクソだめの中で友だちもいなくて、それどころか病気のせいでのけものにされてるクセにっ、わたしの提案に乗らないワケは――」

「まず、俺は一人でいるのが好きなんです。どこに行くにも何をするにも、一人なことに抵抗ていこうはありません」

「なっ……そんな下らない理由でっ!」

「下らなくはありません。一個人として大切にしたいパーソナルスペースの話ですから」

「ぱ、ぱそな???」

「そして、もう一つは……俺は別にいじめられてなどいない、ってことです」

「え……え? だってさっき、」

「俺はいじめられているなんて一言も。ココウェルが勝手に思っているだけです。ま、実際二ヶ月ほど前までいじめられてはいたんでしょうけど」

「じゃ……じゃあ今だって、」

「でも……プレジアの連中は、そうおろかでもない」

「なっ――」

「以上です。お気持ちはうれしいですが、まあそこまで俺に構わずに。ココウェルもお忙しいでしょうから」

「ちょ――待ちなさいよ結局いじめと友達――もうっ!! 許可なくわたしの先を行くなってのッ!!」



 だきっ、とまたもココウェルが俺の腕を谷間にはさみ込む。

 その凶悪な拘束こうそくの仕方はよせ。機神の縛光エルファナ・ポースより効く。



「だからココウェル、その魅力でこんなことをされては、また頭痛が――」

「うっさいうっさい、今はわたしの下僕のクセに!! 本当の味方までそうして突き放してたらお前、ほ――ほんとに誰も周りにいなくなっちゃうんだからっ!!」

「何の話ですか。別に俺はあなたを――」

「何してるの。ケイ君・・・

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