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 普段ふだんはそれなりに緊張感のある空間となっている訓練施設も、ここで行われる学祭のイベント準備のため、どこか気の抜けた、しかしあわただしい空気に染まっていた。



 そんな場所の武骨ぶこつ石壁いしかべ石柱せきちゅうに(演習スペースの障壁しょうへきを発生させる魔石ませき直貼しかばりされていたポスターは、流石さすが風紀ふうき委員いいんが目の前でがしている。どこに行ってもマナーのなっていない者はいるものだ)、せっせと二人でポスターをっていく。

 パールゥの強い申し出により、ポスターは一枚ずつ、交替で貼ることになった。良くは分からないが、特に異議いぎも無いので従う。



 それにしても……またこのポスターの……デザインはどうなっているのか。



「すごいよね、コレ。パフィラが作ったんだよ」

「人は見かけによらない才能を持ってるよな……」



 ポスターの題材は当然、俺達の劇の演目えんもく英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』だ。

 しかし、このポスターは俺の世界にれていた二次元に終始した平面の紙ではなく――なんと、主役であるマリスタ……と俺と、そして所謂いわゆるラスボスであるギリートがポスターの中で実際に動き続けているのだ。

 対峙たいじしたり、戦ったり、相棒あいぼうである俺とマリスタの二人が手を取り合ったり……先日魔石に写し取った動きを繰り返し、忠実ちゅうじつに再現している。

 どういう仕組みなのだろう。インクに魔力まりょくが込められているのか。



「パフィラの家、確かこういう仕掛しかけのあるオモチャを作る魔道具まどうぐの家族じゃなかったかな。たぶんそれで……」

「……あいつが社長になったら売れそうだな」

「そう思うよね。発想が突飛とっぴだもの、パフィラは。ふふふ……さ、これでここにる分は最後だよ……って。う。う」

「?」



 最後の柱にポスターを貼っていたパールゥが、みょうな声を出して止まる。

 何事かとのぞき込んでみると、けていたまる眼鏡めがねが少し、鼻の方へズレていた。

 こいつの眼鏡がズレてるところなんて初めて見たな。



「俺がるよ」

「えっだめ! 今度は私の番――」

「そんな厳密げんみつに守ることじゃないだろ。ほら。眼鏡直してろよ」

「あ……」



 パールゥの手が置かれていた、貼り途中とちゅうのポスターに手を置いて支え、裏にある両面テープの剥離紙はくりしがして貼り付ける。

 俺の居た世界と全く同じものだが、これに限ったことではない。最近では新しくそういうものを見ても、そう驚かなくなってきた。所々ところどころで魔石に成り代わられているが、基本的には俺が居た世界と文明レベルは変わらないようなのだ。

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