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 ――――沈黙。



 それはきっと、あざけりさえこもった一瞬。



「…………限りなく怪しいこの状況で、お前を信じろと。そう言うんだな、アマセ」

「ああ。時間をくれ。俺を信じて、待っていて欲しい。俺が握っている情報が、本当にこの事件の真相足り得るのかどうかをハッキリさせるのを」

「――言いたいことはわかった。ケイ・アマセ。校長と同じくお前を拘束こうそくする」

『!!』

「ちょ――ちょっと待ってくださいッ!」

「そしてお前に問おう、マリスタ・アルテアス」

「っ、ぁ、」



 言葉でマリスタを征すフェイリー。

 マリスタはまるで指先を眼前に突き付けられたかのようにり、押し黙った。



「この男は今を以て我々・・の仲間ではなくなった。アマセの知っていることをお前も知っているな。全て話してほしい。今この場でだ」

「…………!!」



 全員が、何も言わずにマリスタを見る。



 ――――上手くいった・・・・・・



 フェイリーの決定はごく自然だ。

 俺でもきっと、彼の立場ならそう決定し、明らかな不穏分子ふおんぶんしである俺を排除するだろう。



 だからこれは、予想通りの結末。

 


 この後フェイリーと、あるいは他のアルクスと二人だけになったタイミングでなら、この情報を洗いざらい話すことは十分出来る。

 俺が危惧きぐしているのは、玉石混交ぎょくせきこんこうとした今この場にいる全員に、この情報が知れてしまうことだからだ。



 情報が多数に知れてしまえば、敵にれる可能性も高くなる。

 ごく一部の信頼できる仲間だけに話し、ジワジワと信頼を集め、策を練る。

 これが今思い付く最善の策だろう。

 後は全員を口車に乗せて――――俺を助けようとして、きっと今ここで口を割ってしまうであろうマリスタが持っている情報が、俺として取るに足らないものであると誤認ごにんさせ、適当にこの場を乗り切ることが出来れば良いだけ――――



「……話しません。私も」

「――っ!?」



 フェイリーが小さく目を見開く。

 しかし、れた驚きの声は俺のものだった。



「ま……マリスタ? 何を言うのです、今コレ・・くみしても貴女あなたに何のメリットも――――」

「無いよ。無いし、すごく疑わしいけど……私はケイを信じようと思う」

「――――」

「――――」



 ……ナタリーと共に固まる。

 ギリートが、そしてリセルがこちらを見ていることに気付き、努めて表情を平静に保つ。



 いきなり……いきなり何を、突拍子も無いことを。



「……発言の意味は解ってるのか?」

「……解ってます。あっ、でも、それだと……私もアルクスに、捕まっちゃいます?」

「捕まるに決まってるでしょう? 一時の気の迷いですよね、考え直してくださいマリス――」

「じゃあ俺も捕まえてもらわなきゃな」



 ――およそこのタイミングで聞こえるはずの無い声が、皆を振り向かせる。



 俺とフェイリーの間に、ぶ厚い筋肉の壁が立ちはだかった。



「!?」

「び――」

「――ビージ・バディルオン……!?」

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