6



 ……マリスタと、名前を呼んだきりナタリーまでも絶句した。

 ヴィエルナに視線を飛ばしてみるが、彼女も驚いている様子。

こいつの差し金でも無いのか。

馬鹿な。

だとしたら、



〝殺してやる殺してやるぞアマセェッッ!!!〟



……だとしたら、何だってこいつが俺をかばう――



「出んなら声かけろよ、ビージ。……俺もノッた」

「は!?」

「……ロハザー・ハイエイト。お前もか」

「くそっ。メンドくせぇ所で信用を担保たんぽにしやがって」

「……!? ざ。ザードチップ先生」



 流石に戸惑いを隠しきれない声でフェイリー。

 トルトは本当に面倒臭そうに俺をひとにらみしたが、それでも俺への支持を取り下げなかった。



 馬鹿かこいつら。こんな信用合戦をせずとも、俺とフェイリーが二人きりになれれば話は前へ――



〝なんかあったら頼れや。話くらいはきいてやる〟



「――――」



 ――――合点。



「私も」

「……!」

「ハッハ!」

「来てくれると思ったよっ、ヴィエルナちゃん!」



 ――――合点して、いいのか。

 こいつらが、俺が今思いついた思考回路で動いてくれているのだと……そんな、自分勝手な合点をしてしまって、本当にいいのか。



 良い訳が無い。

 俺は自分の為だけに生きてきた。

 人をかえりみることも、省みられることもない。そんな義理は、どこにも生じていないはずだ。

 百歩譲って、意味不明な性分を持つマリスタとヴィエルナ、そして利害の一致の上にいるトルトはまだ理解できなくもない。

 だが奴ら――ロハザーやチェニク、ビージは俺に味方する義理は何も無いはずで――



あの時・・・。アマセは、僕たちの為に戦ってくれた」



 声へ振り返る。



 そこにいたのは、医務室の奥から戻ってきたらしい茶髪の少年。



「……テインツ・オーダーガード」



 フェイリーが声を低くし、テインツに視線を送る。

 彼はそれを、真正面から見つめ返した。

 遅れて現れたシータが、不安そうにテインツへ、俺達へと目をさ迷わせた。



「そいつは嫌な奴です。いつも涼しそうな顔をして腹の中を見せなくて、自分の感情や都合で人を利用して、その好意につけ込んで。お世辞にもいいやつだとは言えません」

「ギリート。空気を読め」

「くっ……ぷ。はい。ごめん」



 たしなめても壁を向いて笑いをらし続けるギリートを全員がひとにらみし、視線を戻す。



「それで? その嫌な奴の肩をお前は何故持つ」

「でもアマセは、俺を救ってくれた」

「っ――」



 ――ギリートではないが吹きだしそうになった。

 勿論もちろん笑いの意味ではなく、だ。



〝だから――これきりだ。これ一度だけ――――もう一度だけ、背負ってみよう〟



 そんな世迷言よまいごとを吐いた、あの日のケイ・アマセを思い出す。

 だがあれ・・だって、ケイ・アマセが自分の都合で背負おうとしただけだ。

 究極的には、テインツが俺に恩を感じる必要など微塵みじんも無い。



 ……無い、はずで……

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