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「いやいや。あのおっぱいバカなら口をすべらせるかもしれない」

「ぶっ……?!」

「うわ?!?! て――テインツてめ、茶ァ吹いてんじゃねーよ! きったね」

「わ、わわ悪いビージ、すまんっ……アルテアス!! なななっ、何を言うんだ急に君は!!」

「なっ、なによぉ!? おっぱい程度でそんなっ、ど動揺どうようしないでよね!」

「してんじゃねーかおめーも……」



 半眼でロハザー。

 俺がトルトを見ると、彼は実に面倒くさそうにテーブルの上にあった台拭だいふきを取り、テインツに投げつけた。



「そんなに馬鹿なのですか? リシディア唯一ゆいいつ姫君ひめぎみは」

「な――ナタリーも知らないの? ううん……なんていうかね、もうホント考え方が……おろか。うん、愚かなの。わがままでゴーマンで――」

「そ、そうなのか、アマセ?」

「…………その辺にしとけよ。マリスタ」

「え?……あ、うん」

「そう、その辺はどうでもいいことだ。大事なのは」



 マリスタが黙り、トルトが口を開く。



「結局、その王女かもしれねぇ奴の口を、お前さんが割れるのかどうかだ、アマセ。お前さんの言う作戦は、その王女かもしれねぇ奴から真実を聞き出せることが絶対条件だ、そうだろう? お前さんが知りうるそいつの性格をまえた上で……出来るのか。王族に取り入りお前を信じ込ませ、全てを聞き出すなんてだいそれたことが」



 全員の目が、俺へ集中する。



〝ふふっ、ってことはやっぱり――あんたが頼れるのは、わたししかいなかったってことなのね?〟



「――……可能だ。百パーセントは保証できないが、邪魔が入らなければほぼ間違いなく上手くいく」

「じゃ……邪魔? それって、あの横にいる騎士きしの子のこと?」



 マリスタの声。

 俺は努めて表情を崩さないようにしつつ、彼女を見た。



「確かにそいつも脅威だろう。だが俺が言ったのは――――パールゥ・フォンのことだ」

「……あ……」



 マリスタがそうらし、全てに納得がいった様子で小さく何度もうなずく。

 いくつかの嘆息たんそくが、室内を満たした。



「気乗りしないのはわかる。言いにくいが――――作戦中は、パールゥを俺に近寄らせないようにして欲しい」

「いやいやいや。な、何だよ? よく知らねえけどお前達、そんなこじれてんのかよ今?」



 ビージが言う。トルトがいだ。



「面倒にも程があんだろ。なんで他人の色恋沙汰いろこいざたに首突っ込まなきゃいけねぇのよ……この後話すか、この場に呼んで了解を取るワケにゃいかねえのか?」

「……正直、話すことでどんな影響が出るか、予測出来ないんだ。今のアイツは。あのイベントがいい例だ」

「同感ですね。私も、流石にあの子にああまでしこたま殴られることになるとは、ついさっきまで考えもしませんでしたから」



 下を向いたままそう言い、右手でほおに触れるナタリー。治癒魔法ちゆまほうすでに傷はえているものの、イベント中の顔は随分ずいぶんな有様だった。



 ナタリーが言ったことで、皆のにも落ちたのだろうか。

 トルトに続いて声を挙げる者は居なかった。



 くそ、何なんだこの――どこか続きを話しにくい空気は。

 まったくやりにくい。



「全てが終わった後に俺がびを入れる。だからそれまで、作戦のことをあいつに気取られないようにしてくれ。どう影響してくるかわからない。あいつが王女に何かしらアクションを起こそうものなら、計画そのものにさわりが出かねない」

「めちゃくちゃヤベー奴扱いじゃねーかよまるで……」

「文字通りのものだね……かわいそうだけど、作戦中は仕方ないな」

「もう……全部終わったらうんと優しくしてあげなくっちゃ」



 げんなりした様子でロハザー、テインツが言う。シャノリアは辛そうに目を閉じた。

 だが一応、全員が納得してくれたようだ。

 俺は小さく頭をれた。



「頼む。…………後は、襲撃者への対処だが」

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