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 誰も言葉を発さない。

 皆黙り、俺の次の言葉を待っている。



 ……こちらに関してはそれほどの妙案が浮かんでいないのが、心苦しいが。



「奴らの元締もとじめが誰かによって、対応は大きく変わってくるだろう。つまり……司令官が王女なのか、それとも別の人物なのかによって」

「!」



 マリスタが表情をかたくしたのが分かった。

 そう、王女が頭だというならまだ希望は大きい。

 すきを見てあれを人質に取るなりして、襲撃者の集団そのものを無力化してやればいい。



「別の人物?」

「見当が付いてるのかよ」

「ついてんだろ。さっさと言いな」



 テインツ、ロハザー、そしてトルトが言う。



「さっきのイベントで、王女と一緒にいた黒装束くろしょうぞくの女を見ただろう」

「女? ……ああ、あれ女なのか、分からなかったぜ」

「アヤメと名乗った女だが……実際の所、俺はあいつが襲撃者のトップだと思ってる」

根拠こんきょは?」



 短くヴィエルナ。



治癒魔石ちゆませきだ。今回襲われた三人に使われたとおぼしき治癒魔石と同じものを、アヤメが使うのを確認した。マリスタも証人だ」

「そ、そうだよ。私が串刺しにされたときの傷、あっさり治っちゃってびっくりしたんだから」

「貫かれた!? だ、」

「大丈夫だったのマリスタ!?」



 テインツとシャノリアが目をく。

 オタオタしたマリスタが彼らに向き合い、何やら経緯けいいを説明し始めたようだ。



「体を貫いた傷が治る、か。確かにそこいらの治癒魔石じゃ成しえねぇ芸当だな。だが、どう対処するつもりだよ。分かってんだろ。想定する相手が王国関係者である以上――――武力での解決は出来ねぇって」

「…………」



 ……ずっと考えていることだった。

 実の所、今回の件が最も厄介なポイントはここだ。



 王国関係者に手を出したとなれば、下手をすると国内こくない情勢じょうせいの不安をまねく可能性がある。プレジアの解体、極端に言えばリシディア王国軍との武力衝突さえ起こってしまいかねないのだ。

 そしてそうなれば――――次に待つのは周辺国の介入、そして侵略だ。

 過去リシディアに侵略戦争を仕掛けてきたというアッカス、バジラノがその好機を逃すとも思えない。

 無限の内乱以後、交流が途絶えている魔女の国のこともある。



 いたずらに事を荒立あらだてれば、国がかたむく。……可能性がある。

 俺の居た国でいう、天皇に怪我けがを負わせた者が無事で済むはずが無いのと、同じ道理だ。



 そんな、俺からしたら全くもっあずかり知らぬ勢力図にまで、影響を及ぼしてしまいかねないのである。



「んなモン簡単だろザードチップ先生っ。奴らを現行犯で捕まえて、映像でも何でも取って! グウの音も出ねぇようにしてやりゃいいじゃねーかっ」

「どうやって現行犯で捕まえるんだ?」

「そりゃ――」

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