17



 ビージが言葉を切る。



「――追い詰めて!」

「どうやってだよ。ここまで風紀の連中全滅だぞ」

「……記録石ディーチェだっ。映像を押さえりゃ、」

「それを防ぐために黒装束くろしょうぞくに仮面で衣裳いしょう統一とういつしてんだろ奴らは」

「そして、仮面をぐほど追い詰めるまでには……やられているか逃げられているか、攻撃を加えてしまってるだろうね。現実的じゃない」

「……くそ……ッ!!」



 ビージが壁を打ち、大きく息を吐く。

 ビージをさとしたテインツも、浮かない顔でうつむいてしまう。



「……トルト。あんたなら――」

勘弁かんべんしろや。何人いるかも分からねぇ、風紀の連中をあっさりのせるような連中を無傷で捕縛ほばくしろだぁ? 出来る奴いんのかい、そんなモン」

「…………」

「逆に言えば」



 全員の耳に通る声。

 向けられた視線を一瞥いちべつし、ナタリーが口を開いた。



「彼らが王国関係者である証拠しょうこを押さえて、かつ現行犯で捕縛ほばくすれば全て解決なわけですよね」

「――――いや、そりゃそうだけどさ。それが難しいって話を――」

「オーダーガードさんは何か対案たいあんが?」

「それ――は、ないけど」

「じゃあそれを考えるしかないのでは? ちなみにその王女自体が偽物にせもので、敵が王国と全く無関係の馬鹿共の集まりだった場合は、問答無用でトルト・ザードチップ先生に撃滅げきめつしていただけばいいのですよね」

「ンで俺なんだよ……」

「たとえ話です」

「…………?」



 ……なんだ? ナタリーの奴。

 誰とも目を合わせず、どこかほうけた顔で……



「でも、すごく難しい話なのは確かよ、コーミレイさん。それでなくても、私達は『大魔法祭だいまほうさいに来ている外部のお客さんに不安を与える事が無いよう、秘密裏ひみつりに事件を片付ける』必要があるのだし。戦闘にしろ拘束こうそくにしろ、騒ぎにならないようにすること自体が難しいわ」

「八方塞がりな案件ですね、それはまた」

「そんな他人事みたいに――」

「ナタリー」



 シャノリアをさえぎり、ナタリーに近付く。

 彼女は神妙しんみょうな顔で俺を見た。やはり様子が変だ。



「お前、何か思い付いたことでもあるんじゃないのか」

「……いえ別に? 少し疲れているだけです」

「?……そうか」

「ま、つまりだ。奴らへの対抗策が思いつかない以上――お前さんはくれぐれも深入りするべきじゃねぇってことだぜ。アマセ」

「深入り?」

「おう」



 トルトが茶を飲み干し、俺を見る。



「アルテアスのじょうちゃんから聞いた話じゃ、あれは王女の従者なんだろ。あからさまに探りを入れりゃ、その従者が止めに入ってくるのは見えてるじゃねぇか。それでも無理にこうとすりゃ戦闘になる。つーか、王女がボスだったら王女に探り入れた時点で戦闘になるかもしれねぇ。戦闘って手段を選べねぇ俺達にゃ、取れる選択肢なんて無いに等しい、そうだろ?」



 肩まで届く横分けの髪をらしながら、ぐるりと周りを見渡すトルト。

 閉塞感へいそくかんだけが、場を支配した。



〝俺を――――俺達を・・・信じてくれ、フェイリー。きっと、この事件の解決に役立ってみせる〟



 ……いさみ足だっただろうか。

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