18



 結局、俺にも打つ手はほぼ無い。

 どう転ぶかわからない手段が一つ、思い付くだけだ。

 それ以外は問題だけが山積さんせきして、それをどう片付けたらいいのかも分からない――



 手が痛む。

 知らず、壁に手を打ち付けていた。

 気持ちは、ビージに負けず劣らず急いている、ということか。



「……くそ」



 どうすればいい。

 どうすれば、この閉塞へいそくを――



「ま、やるしかねぇか」

「――――ぁ?」



 一瞬、誰の声かわからなかった。



 視線を、部屋の中央に戻す。



 トルトが、俺を見て――――めずらしく、小さく笑っていた。



「ヤキが回ったモンだな、俺も。後悔させんじゃねえぞ。アマセ」

「、……どういう意味だ?」

「ヘンなとこで頭の悪りィ奴だなお前さんは。危うい道は承知の上、俺はそれでもお前さんのけに乗るって言ってんだ」

「な――」

「はっ――あなたとこんなに意見が合う日が来るとは思いませんでしたよ、ザードチップ先生」



 ベッドに腰掛けていたテインツが立ち上がる。

 トルトは彼を一瞥いちべつし、鼻をしゃくってこたえた。



「アルクス相手にあんな大見得おおみえを切ったんだ。ハナから後戻りなんて考えてないよ。僕も乗った。ま、皆もだろうけど?」

「テインツ――」

「そうだな。お前が言ったモンよりえた案が思い浮かんでるワケでもねぇ。やれるだけやってやるさ。で? 俺達ぁどうやっておめーをイジメ抜きゃいいんだ、アマセ」

「響きワリーからイジメって言うなよ……オラ、とっとと話せよアマセ。作戦のこまけー所をよ」

「…………おま」

「それ以上ゆーなッ!」

「!」


 

 ビ、と人差し指を突き出して俺の動きを制し、マリスタが笑った。



「何べんも言わせないでよね。私達は、アンタを信用してここに集まってんの。自信ないからって、それを何回も確認しないよーに!……そう、野暮やぼってやつだからね!」

「――――、――……ああ。そうだな」



 息と共に。



 あきれ笑いが、こぼれた。




◆     ◆




「全員、集まった!?」

『はい!』



 照明に照らされた舞台の上で、取り取りの衣裳いしょう化粧メイクに身を包み。円になった役者達が、めいめいにおうと叫ぶ。

 プレジアだい魔法まほうさい、一日目夕刻ゆうこく

 ニクラス合同の演劇『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』が、いよいよ初演しょえん――一回目の本番をむかえるのだ。



「実質三週間の練習期間、そしてそれぞれに他の出し物や学業も抱えた中で、あなた達は力の限り稽古けいこしてきたわ。散々しごいてきた私が言うんだから間違いない」

          「そりゃそうでしょ… 

茶化ちゃかすなハイエイトッッ!!」

「げえっ聞こえてた?!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る