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 またも教室がここではない、ロハザー・ハイエイトだった。

 マリスタの声にロハザーは、「叫ぶなよ迷惑だろ」と言わんばかりに顔をしかめ、人差し指を立てて恥ずかしそうに口の前に置いた。



「な……なんであんたがここに来るのよ!」

「っせーな、俺達だって来たくて来てんじゃねーの。……つか、とっとと入れよオメーも! ずいんだよそんなデカい図体ずうたいでマゴつかれてるとよ!」

「バッカロハザーてめ、デカい声で言うなって……!」

「わかったから、観念かんねんして早く入れってビージ……後ろつかえてるし」



 ロハザーの後ろ、出入り口でなにやらやり取りをする人影。

 いで入ってきたのは――困り顔のテインツ・オーダーガードと他クラスのチェニク・セイントーン。そして何やら非常にばつの悪そうな……大柄おおがらのベージュローブ、ビージ・バディルオン。



「…………」

「…………!!」



 奴は俺と目が合うなり、憎悪ぞうおとも羞恥しゅうちともつかない顔で俺をにらみつけてきた。

 ……まあ、気持ちはわからんでもない。



「ったく、世話かけやがって。オメーはメインじゃねぇんだっての」

「う、うっせーなっ! 分かってんよンなこた……!」

「ごめんねみんな。入って入ってー」

「う、わ……なんかエラい入ってきたわよ!?」



 エリダが目を丸くする。

 チェニクの声を切っけにして、出入り口に色取りどりのローブがひしめいた。

 ぞろぞろと教室へ入ってきた生徒たちの中には、何人か見知った顔もある。全部で三十人程だろうか。

 よく見ればこいつら――



「みんな、四組の人たちだね。ケネディ先生のとこの」

「や、言われてみればそう……だけど」



 リアがエリダに耳打ちする。

 エリダは益々ますます眉間にしわを寄せた。

 全員が入り切ったようで、ほどく人の入りは止まった。

 いや――



「『全員はいない』。そう思ったんだろ、アマセ」

「!…………ロハザー、それは」

「ああ。いるぜ・・・。――入れよ!」

『!!!』



 ――――ロハザーの声に応じ、小さな歩幅で歩みってくる少女。



 全員が身構える。

 マリスタが身を乗り出すようにして立ち上がり、ただただ目を見開いていく。



 すらりと伸びた白い足。

 扉枠とびらわくに置かれた手。

 ローブの袖口そでぐちから見えるか細い腕。

 少し伸びた黒髪くろかみ

 そして、



「――――ヴィエルナちゃんっっっ!!!!!!!」



 ――相変わらずの能面のうめんに咲く、花のようにはかない笑顔。



 マリスタが机上を飛び、ヴィエルナ目掛めがけて飛来ひらいする。

 病み上がりに向かった突拍子とっぴょうしもない行動にロハザーも目玉をひんいて仰天ぎょうてんし、あわててヴィエルナの前に立とうと――



「――――っ、」

「っ!? お、おいヴィエルナっ」



 ――ヴィエルナ・キースはそれより速くマリスタへと駆け、魔弾の砲手バレットもかくやという勢いで飛び込んできたマリスタを力強く、受け止めた。

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