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 ……ナタリーが言葉を切り、ピクリと目をするどくする。

 俺以外にもこんな表情を見せるのか、こいつ。



「……おやおや、一体誰かと思えば他クラスの部外者じゃありませんか。まさか卒業も目前にひかえたこんな時期に教室をお忘れになったので? 休学中に痴呆ちほうでも進みましたか」

「相変わらず舌鋒ぜっぽうおとろえずだね。それが君の一番の魅力なんだし、この先もしっかりとがらせてくと良いと思うね、英雄からのアドバイスだよ」

「よくもまあ自分のことをそうやって……」

「や、僕のこと話してたみたいだったから、つい……違ったかな?」



 教室に入ってきたのは、純白のローブをまとう茶髪の男。

 まさに優男やさおとこといったその出で立ちと甘いマスクにほうけている女子、ガンを飛ばす男子の間を悠々ゆうゆうと歩いてくる男。

 こいつこそ、実技じつぎしけん試験しけんを無事に終息しゅうそくさせた英雄――――ギリート・イグニトリオ。

 ディノバーツ、アルテアス、ティアルバーに並ぶ、四大よんだい貴族きぞくイグニトリオ家の嫡男ちゃくなんだ。



「自分だけが英雄のような言い方ですねぇ?? 自己じこ顕示けんじよくかたまりですねーあぁまったくみっともない」

「? 僕が英雄であることには変わりなくない?」

謙虚けんきょ美徳びとくを知りなさいというお話ですが」

「おはよう。体はもういいの?」

「あ、ああ……日常生活には支障ししょうない」

「よかった。ルームメイトに・・・・・・・死なれちゃ寝覚めが悪いからね」

「……貴方あなた達いつか必ず殺しますから覚悟しておいてくださいねホントに……」

「ナタリー。目」

「こ、言葉もおさえたげてシスティーナ……」

「アルテアスさんも、みんなも。おはよう」

「おはよー!!! すきー!!!」

「シータ左っ! あたしは右っ」

「!? ちょ、なんで私が――――ああもう面倒なっ、サカってんじゃないわよデコっぱち!」

「お、おはよ……ていうか。どうしてイグニトリオ君がここに?」

「あれ、アルテアスさん聞いてないの? ディノバーツ先生っていつも事務じむ連絡れんらく遅いよね、家の仕事回ってるのかな?」

「……だからアンタはそのきぬせなさぎる言動をつつしめって言ってんだろ、イグニトリオ」



 自然な笑顔で毒を吐くギリートをとがめる声。

 声の主は今まさに教室へ入ってくるところで、



「ロ――ロハザー!?」

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