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◆     ◆




「……ん……」



 テインツ・オーダーガードが目を覚ましたのは、それからしばらくしてのことだった。

 覚めぬ眠気にぼやける視界の中で、意識がゆっくりと現実を――



「……ッッ……!!」



 ――黒装束くろしょうぞくの二人組に敗北した自分を、思い出させた。



 飛び起きる。

 首を振るまでもなく、視界には複数の空いたベッドと、そして――ぐったりした様子で寝かされている風紀委員ふうきいいんたち。

 彼らが何にやられたのかはすぐに検討が付いた。



 医務室の引き戸が開かれた。



「!」

「っ……」



 服の胸元のボタンをめながら現れたのは、シータ・メルディネス。

 シータは胸元を隠すようにしながら、早歩きで自分のベッドに戻り、布団にくるまって背を向けた。

 右隣のベッドに居たテインツに。



「な……なんだよ君、その動きはっ」

「う、うるさいわよっ。じろじろ見ないで視姦しかんよっ」

「シ、シカン……??」

「変態な目で見ないでってことっ!」

「へっ――見てないよそんな風には失礼なっ!」

「はっ、どうだかっ。…………」



 十人ほどの空間。

 目覚めているのは彼と彼女だけ。



 なんて時に目覚めてしまったのだろう、とテインツは思う。

 せめて、空いたベッドに寝ていたはずの者達が戻ってくれば――



 ――空いたベッド。



「無事なんだよな。空いてるベッドに寝ていた奴らは」

「……うん。無事だわよ。治療房ちりょうぼうで精密検査を受けているだけ。誰も死んでないから安心して」

「……なのに治療房に?」

「ねえ、オーダーガード。あなた、アマセ君とティアルバー君の戦いの決着、おぼえてる?」

「え?」



 唐突に投げられた質問は、彼の意識を急速に過去へと飛ばす。



(――憶えてるも何も、忘れるワケないじゃないか。僕はプライドも何も捨てて、アマセにティアルバーさんを倒してくれるように願って、それで――――――)



 ――――それで、決着は、どう着いたのだったか。



「やっぱり憶えてない?」

「…………どうしてだ? どうして決着の部分だけ、こうもスッポリと抜け落ちて……!?」

「みんなそうなのよ」

「え?」

「みんな。あんたより先に起きた人達も一人残らず、決着の部分だけ憶えてなかった。『痛みの呪い』の部分だけ」

「い……『痛みの呪い』?」



 自分と同じ症状を抱えているテインツにシータは、これまでの話を語り聞かせた。

 いや、自分に再度語りかけた、と言った方が正しいかもしれない。



 国が敵である可能性。プレジアに不穏分子ふおんぶんしが居る可能性。

 先の議論の中で話された何もかもが、シータにとっては現実味の無い、遠く離れた世界の話だったから。



 テインツにとっても、それは同じで。



「…………犯人は、国かプレジアの人間…………?」

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