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「無い。……あの無責任女の考えがここまでならな」

「名前で呼べ、わかりにくい。……どうも精神的に未熟だな、お前達は。そんなことじゃアルクスはつとまらんぞ」

「……ええ」

「だがいい頭を持ってる」



 フェイリーが俺の前に立ち――初めてゆるんだ表情を見せた。

 なんだかその目を直視できず、俺は目をらした。



「今後も頼らせてもらおう。アルクスの大半が任務で出払っている状況では、お前の頭は役に立つ」

「買いかぶりだ。俺はナタリー・コーミレイの仮定をなぞっただけで」

「だから評価してるんじゃないか。あの子も結構な切れ者だが、それをここまで導けるお前も相当なもんだろ。自信を持てよ、いいコンビだぞお前達」

「コンビね」

「お前が満足に動けていたらと思うよ。実力に関してもがみ付きだからな……今の境遇きょうぐうにへこたれず、今後も精進しょうじんしてくれ。プレジアの為に」

「…………」



 …………プレジアの為に、か。申し訳ないことだな。



 俺は俺の為にしか動いていない。

 ここに来たのも、長々と講釈こうしゃくめいたことをれたのも――



〝リシディア王朝おうちょう第二だいに王女おうじょ、ココウェル・ミファ・リシディアよ!〟



 ――そう。

 俺が隠しているお忍びの来訪この事実が、今回の件に関わっている可能性があるから、に過ぎない。



 これを置いては、自分の目的になどとても邁進まいしん出来ないだろう。



 心の自由を取り戻すため

 それだけが、俺がこの件に関わる理由だ。



 だからこそ、早急さっきゅうに奴らを探さなければ。



「じゃあ、ひとまずこの場は解散しよう。今警備に出ている連中には、アルクスの方から連絡を回す。特に魔術師コースの君らは、ここでの話を決して口外こうがいしないように」

『はい!』

校医こうい先生は、とりあえずシータ・メルディネスの検査を」

「ええ。検査準備はとっくにできてるわ。さっそく取りかかるわね」

「ええ。――では校長」

「……アルクスを呼び戻さなければなりませんね」

「昨日の時点ですでに連絡済みです。任務にんむを終え、明日にはガイツ兵士長が戻る予定です」

「そうですか。私のせいで要らぬ苦労をかけて申し訳ない」

「仕事ですから。あなたはしっかり話をしてくれればいい」

「ええ。では、行きましょう」

「それとギリート・イグニトリオ」

「はい?」

「議論の進展には助けられたが、大貴族とはいえミーティングをすっぽかすのはいただけんぞ。他の連中は今そっちに行ってるんだろ」

「げ。バレてたんですね」

「なぜバレないと思うんだ。さっさと行け」

「はーい」

「ケイ・アマセ。お前もだぞ」

「俺?」

「セイカードとアルテアスに警護される筈だったろう。わずらわしかろうが決定には従え」

「……はい。ではこの後二人と合流を」

「ああ」



 皆に一足遅れ、医務室いむしつを出る。

 いつ終わるとも知れないミーティングを待ってなどいられない。



 王国の関係者かもしれない襲撃者。

 と時を同じくして現れた、お忍び王女。

 偶然にしては出来過ぎている。



 どこだ。

 ココウェル・ミファ・リシディア。

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