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 エリダがやんわりと制止せいしを試みるも、リアは強い目のままギリートを見据みすえたままだ。

 当のギリートもこの返しは想定していなかったのだろう。とぼけた真顔のまま数秒固まり、そして目だけを動かして再びリアを見た。



「疑う理由ないでしょ。僕を」

「いいえ、疑おうと思えばどこまでも疑える。君だってアルクスだって、私だってそう。でもそんなことをしてたら、誰も信じられなくなってしまう」

「うーん。それじゃアルクスを信用する根拠にはとぼしいかな」

「だからそういう――」

「んーでも。いいよ。わかった。これはまた今の話とは別問題になっちゃうよね。確かに君の言う通り、確たる証拠は何もない。状況証拠じょうきょうしょうこだけってやつだ。信じる根拠はないけど、疑う根拠にも乏しい。今のところはただ、新たな情報を待つとするよ」

「…………解った」



 互いが引き下がる。

 フェイリーは溜息ためいきを一つこぼしたのち、俺を見た。



 確かに、最早もはや誰もが怪しく見える。

 疑心暗鬼ぎしんあんきとはまさに、今のような状況――そして、今のような気分を言うのだろう。

 だが、どこか懐かしい気持ちだ。俺もここに来たばかりの頃は、何を信じたらいいか解らない状況だった。



 結局は、自分で決めるしかないのだ。

 何を信じ、何を選択し、何をするのかを。



 思考停止で歩みを止めれば、状況は一向いっこうに変わらない。



「……話を戻そう。つまり、欲しい情報は敵の侵入経路しんにゅうけいろだ。疑っても詮無せんない内部犯説は置いて、可能性としてげておきたいのは――簡易転移魔法かんいてんいまほうだ」



 「簡易?」という声が魔術師コースの女子達かられる。

 ギリートがニコニコと彼女等に近寄りっていく。

 説明するつもりなのだろう。簡易転移のことを。



 俺の言葉にフェイリーがうなずく。



「……だな。襲撃者はそれを使ってロハザー・ハイエイトらの前から姿を消した。俺が情報筋じょうほうすじを当たってみよう。強固な魔法障壁によって守られた建物内部に、外から簡易転移かんいてんいを使って侵入しんにゅうできるのかどうか」

「頼む。ギリートも、もし大貴族だいきぞくのコネを使って情報が手に入るならそうして欲しいんだが」

「ん? うーん。まあ、それもやってみる価値はあるかな」

「それ『も』?」

「うん。敵の正体についても探りを入れてみるつもり。王国には親しいつながりがあるからね、一応」

「――そうか、お前は父親が……」

「はい、王国騎士長おうこくきしちょうなので。探る価値はあると思います」

騎士長きしちょう!?……なのか」

「うん、そうだよ?」

「…………ますますお前が信じられなくなりそうだよ」

「信じようよ!」

「リアの真似をするな気持ち悪い」

「ふざけるなお前ら。――王国にこの件を伝えるのはまだ早い、それを忘れるなよ。プレジアとリシディアの関係を悪化させかねん」

「承知してますとも」

「……今のところ動けるのは、このくらいだろう。他にはあるか、アマセ」

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