背水――――最上級魔法、ふたたび

「え……」

「な、なんか言いました先生?」

「どうしてそこまでして……ソレを使ったとき何が起きたか・・・・・・、覚えていないわけじゃないでしょう、ケイ……!」

「……先生、まさか。アマセの奴、まだ……何かやろうとしてるんですか?」



 エリダの声が興奮をびる。

 パールゥが真っ青になった顔から手を外しエリダを、シャノリアを見る。

 自然、全員がスペースへと視線を移した。



 圭は依然いぜん、うずくまっている。

 ナイセストはそれを、剣を片手にただ見下ろしている。



 傍目はためには、勝敗は決しているようにしか思われない光景。

 少女たちはスペースとシャノリアの間とで視線をさ迷わせ、



「合っていますよ、それで」



 背後から聞こえた慇懃いんぎん無礼ぶれいな声へと、一斉に振り返った。



「……コーミレイさん」

「流石ディノバーツ先生、彼のこととなるとよく覚えていらっしゃいますね。…………あの氷柱ひょうちゅうの位置、そしてティアルバーの位置……馬鹿ばかの一つ覚えのようにあの時と同じです」

「……!……見間違いであって欲しかった。でも、やっぱりそうなのねコーミレイさん。ケイは――」



 二人の会話を理解できず、目を白黒させている少女たちの前で。

 当事者の一人ナタリーは、実に面白くなさそうに吐き捨てる。



「……機神の縛光エルファナ・ポース




◆     ◆




 圭はうつむき、せき込むフリ・・をしながらナイセストをうかがう。

 ナイセスト・ティアルバーがどういうわけか自分との戦いを望んでいる・・・・・ことを、圭はすで察知さっちしていた。

 終焉抱き新月カファルダ・ザヴァグスに呑まれた後の、光弾の砲手ライトバレットによる奇襲きしゅう。あれは、倒れた圭にナイセストが間髪かんぱつ入れず止めついげき仕掛しかけてくることを予期して練ったさくだ。



 しかし、ナイセストはたっぷりと時間をかけ、圭が自ら立ち上がるのを待った。

 結果、闇の侵蝕しんしょくに苦しむ芝居しばい早々そうそうに切り上げ、攻撃を手ぐすね引いて待っていた圭はナイセスト、そしてナタリーにやられたフリを見破られてしまうこととなったのである。



(……そう。だから今回も、奴はすぐに仕掛けてはこない――――そしてその方が・・・・、色々な意味で俺にとっても都合がいい)



 ナイセストが歩み寄ってくる音。

 圭は顔を伏せたまま口元をぬぐうフリをし、苦しそうな表情で顔を上げる。

 ナイセストの目は圭の予想通り落胆らくたんたたえ、特にその気もなさそうに、決着のためを進めている。



 理由には皆目かいもく見当がつかない圭だったが、これを利用しない手はなかった。



(そうだ。歩み寄ってこい……俺のそばまで。陣の中央・・・・まで)



 スペースには依然いぜん、圭の放った魔力の残骸ざんがいが残る。



 床に散る砂粒すなつぶ

 いびつに立ち上る氷柱ひょうちゅう



 それらには、圭のこれまでの学び・・が込められている。

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