希望――――無謀なり、機神の縛光



 機神の縛光エルファナ・ポース



 六つの魔法まほうじん起点きてんとして構成される、陣が作る円の中央に位置する者を完全に強固に拘束こうそくする最上級さいじょうきゅう魔法まほう

 そのしばりは魔法障壁をも貫通し、どんな達人をも微動だにさせず。



 その代償に、わずかな時間で術者から莫大ばくだい魔力まりょくを吸い取っていく――――



(あと三歩……)



 ナイセストの歩みを固唾かたずを飲んで見守るのは、今や圭だけではない。

 マリスタ、シャノリア、そしてナタリー――あの時あの場に・・・・・・・いた三人は、皆その他の観衆かんしゅうとは一線をかくした緊迫感きんぱくかんでスペースを見つめている。



 機神の縛光エルファナ・ポースがありふれた魔法であったなら、きっと彼らの他にも気付く者があっただろう。

 機神の縛光エルファナ・ポース特異とくいな魔法だ。発動に、呪文ロゴスは必要としない。

 陣を直接えがき、術を詠唱えいしょうする。その二つが発動条件。それだけを見れば、そう扱い辛い魔法で無いようにも思える。

 だが最上級の拘束力を持つがゆえに、魔法陣の規模きぼは相当なもの。魔法書を見ながらでなければそうそう描けない複雑さをも持つ。



 そうなると陣自体も特徴とくちょう的で目につきやすい。更には消費魔力の観点から、陣の完全な維持いじ魔術師まじゅつしじゅう数人すうにんがかりでないと不可能。

 つまり、機神の縛光エルファナ・ポースは戦闘中に使う魔法としては絶望的に不向きなのである。



(あと二歩……)



 コストの上でも使い勝手の上でも、誰からも敬遠され遠ざけられる魔法。

 いつしか誰にも知られることなく、書物の中にだけひっそりと存在し――



 ――結果けっかろんではあるが。

 だからこそ、機神の縛光エルファナ・ポース奇襲きしゅうるカードなのである。



 まさかそれを使うとは思わない。

 ゆえに、目立ちやすい魔法まほうじんでも気付きようがない。



(あと一歩……!)



 けいが体に力を込める。

 マリスタ達が息をむ。

 ナイセストはそれまでと変わらぬ表情のまま、



 圭の、眼前がんぜんに立った。



(――――ここだ…………!!!!)













成程なるほどこうして陣を隠すわけ・・・・・・・・・・













 爆音。



 爆風が圭の髪を乱れさせる。

 圭は目を見開いて固まったまま――やがて落ち着いた前髪の先に現れた、小さく小さく、だが極上の恍惚こうこつを浮かべるナイセストの顔を見る。



 ……視線が移る。



 ナイセストの背後、圭の視界のみぎおくに存在したひょうちゅう

 それは今や地面ごと闇に・・・・・・かじり取られ・・・・・・跡形あとかたもなく消え失せている。



「………………、」



 跡形もなく、消え失せている。

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