13



 ――――ヴィエルナの目が見開かれる。

 ナイセストは打たれた赤みを残した顔を上げ――――その切れ長の目で彼女を射抜いぬいた。



「お前はそういう女だった、ヴィエルナ・キース。呪文詠唱が出来ない先天的なハンデ嘲笑わらう者共から逃れたいためだけに、力を身に着けた女。プレジアを変えたい自分の背中を押してくれる者がいればと、キッカケが無いのを言い訳に自ら行動を起こさない女。故に風紀委員会に所属し、誰かと一緒に俺を変えようと、俺に背中を押してもらおうと、そしてあわよくばこの想いを、と――――それがヴィエルナ・キースという、いやしい女のすべてだ」



 ――ヴィエルナが、身を固くする。



 ナイセストの話した一言一句すべてが拡声かくせいされ、第二ブロックに、二十四層全域に、浸透しんとうしていく。



「――――いやしいって、何さ」



 マリスタが呆然ぼうぜんと拳をにぎめていく。



「な……何言ってんだよ公衆の面前こんなとこで、あんた」



 ロハザーが無意識につぶやく。



 だが、そんなものはナイセスト太陽には届かない。



「少しでも多くの人々を笑顔に? すべてにおいて他人に責任転嫁でき・・・・・・・・・る状況でしか動けない・・・・・・・・・・お前がか?」

「っ!?」

「だからお前はロハザー・ハイエイトと常に一緒だったのだろう。『側近そっきんとしてよくセットにされる』、とあちこちで話していたようだが……笑わせるな。お前がそう仕向けただ・・・・・・・・・・けだ・・。図書室前での小競こぜいの時もそうだ。お前はさも中立であるようよそおい――――ロハザーに汚れ役を押し付けた」

げェッッ!!!」

『!?』

「バカ言うな、ヴィエルナがそんなッ――――!」



 ロハザーが障壁に両手を叩き付ける。

 周囲の者がぎょっと彼を見た。



 怒りではない。

 その顔がたたえているのは――――まぎれもない、動揺どうよう

 「果たしてそうだっただろうか」という、記憶の遡行そこう



 ナイセストは背後からのそんな声を一瞥いちべつし、ヴィエルナに視線をもどす。



「そして、小賢こざかしくもお前はそれを実に上手に隠してみせた。そして今も、素知らぬ顔で俺の前に立ち、まだ自分が正義の味方なつもりでいる。…………汚い女だ、お前は」

「…!…、」



 目の前で展開される言葉にどう向き合えばいいのか解らず、ヴィエルナはただ黙り、受け止めている。

 ナイセストも表情を変えることなく、淡々と告げ続ける。



「今も変わらないのだろう、そのくさった性根しょうねは。わからないなら探してやろう……何故なぜ、今更また俺を変えようと動き出した? 誰に背中を押してもらった? いやさ――――誰に汚れ役を・・・・・・押し付けた・・・・・?」

「――――――」



〝行動し続ければ、変えていける。ケイはそれを、示してくれた〟









    オカゲデ、ワタシモ、ウゴケルワ









 ――――――――ヴィエルナの肩を、黒い「くい」が打ち抜いた。



『!!!?』



 観覧者かんらんしゃ達が目を見開く。

 人の腕ほどの太さの短い「杭」はヴィエルナの右肩を貫き、――染み入るようにして、ヴィエルナの肩にゆっくりと広がっていく。



「『お前はヴィエルナか』、と俺は問うたな。――――そう、お前はヴィエルナ・キースではない。『ケイ・アマセ』だ。そうわかった以上、後は是非ぜひもない。その世界この世界を、壊す守る。『我々』は、そのために存在するのだから」



 肩を押さえ、片膝かたひざを付くヴィエルナ。

 やみは静かに、確実に――ヴィエルナを「侵蝕しんしょく」していく。



 破壊断罪が、始まる。



暗弾の砲手ダークバレット

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