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「魔術って、微妙びみょうな調整で創られるからさ。別の人が呪文ロゴスや構築式だけを知ったところで使えないんだよ、基本的には。魔力の質や所有属性エトス創生淵源パトスも人によって違うわけだからね。だから別の人じゃ使えないし、使えても本来の効力を発揮はっきしなかったり、最悪暴発することもある」

「……同じ絵を描いても、俺とお前とじゃ出来栄できばえは違う、といったようなことか」

「ズバリだね。すごく的確じゃん、頭いいなー」

「じゃあ、『痛みの呪い』は……ティアルバー君のお父さんからティアルバー君に、受け継がれたものなの?」

「そ。彼はあの時、ほぼ魔力まりょくゼロの状態だったし、最後は意識もなかった。となると、彼の意志で魔術を行使することは出来ない」

「……精痕スティオンから出てきたとしか、考えられない。ってこと?」

「まあそうなるよね。だから決定的だった。そしてティアルバー家にとっては致命ちめいてきだった――なんてったってあの魔術は、リシディア全土の人々に深い傷跡きずあとを残した、『魔女まじょり』すべての元凶げんきょうといっても過言じゃないんだから。言ってはナンだけど――死罪しざい以外どんな刑がお似合いなのさ。って話だよね」

「――――――」



 言い切り、ちらりとヴィエルナの様子をうかがったギリートが立ち上がり、伸びをする。



「ううんっ……ふぅ。さて、話すことは話したし戻ろうかな。あっ、この話他言たごん無用むようだから。よろしくね」

「イグニトリオ君……!」



 パールゥの責めるような視線に、ギリートは見向きもしない。



「でも、なんだかな。四大よんだい貴族きぞくの時代も、割にあっけなく終わっちゃったなぁ。これからは三大さんだい貴族きぞくって言うべきなのかも――」

「うるさい」



 ……切なる声が、ギリートを止め。

 ヴィエルナが、その目に怒りをき出しにして――――ギリートをにらんだ。



「黙れッ!」



 言葉を失う。

 パールゥもきっと、そうだったのだろう。



 俺達はただヴィエルナの目に一杯いっぱいに浮かんだ涙を――それを受け、申し訳なさそうに笑うギリートを、見ていることしか出来なかった。



「……ごめんね。思ったことは言っちゃわないと気が済まない性分しょうぶんでさ。戻ろう、アマセ君」

「え、」

「消灯時間近いし。君たちもぼちぼち帰った方がいいよ」

「分かってますからっ!」

「…………お前、致命ちめいてきに空気読めないな」

「読まないだけだよ。他人に変な遠慮えんりょしたくないっていうか。さあ、戻ろう。君にはまだ話しておきたいことがあるし」

「お前な……」

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