3



 場の空気が変わる。

 フェイリーが俺とトルトに一歩近づいた。



「奴らは簡易転移かんいてんい魔石ませきを持っているような連中だ。純度の高い――効果の高い治癒魔石を持っていても不思議じゃない」

「それでトルト、フェイリー、あとマリスタに、シャノリア――シャノリアあんた、大丈夫か? えらく顔色が悪いが」

「え――ええ。ちょっと体がフラつくだけよ、心配しないで。それで、何?」

「……? ああ、治癒魔石の値打ちだが。どのくらいの値段のものなのか、知らないか」

「わ――悪いけど治癒魔石ちゆませきなんて見たこと無いなぁ。分かんない」

「俺も知らねえな、価格までは」

「だが、すぐに調べは付く。時間は無いが今から――」

「時価三百万ヴォレオ。それも一瞬で使い切っちゃう程度の石でもね」



 戻ってきたパーチェが、指先で何かをもてあそびながら言う。

 それは緑色の小さな――



「――――治癒魔石じゃないですか! 持ってたんですかパーチェ先生っ」

「ま、一応医師のはしくれだからね」



 マリスタが弾けるように駆け寄り、パーチェの手の上で光る石を興味深げに見つめる。

 三百万……その辺の奴の年収くらいはあるな。やはり襲撃者は王国、もしくはプレジアの――――



 ――――待て。マズい。



「なんでそれが治癒魔石だって分かったんだ? アルテアス」

「え――、」



 振り向くまでの間に事態の重さを把握し、目線が俺へと向くマリスタ。

 俺は努めてその視線を無視した。



「お前はついさっき、自分で『治癒魔石なんて見たことが無い』と言ったはずだな。答えてもらおう。どうして治癒魔石が緑色の光を放つと知っていた?」

「あ、んぐ……!?」

「詰める相手が違うのよね。マリスタ」

「っ――ぱ、パーチェ先生?」



 ――何?



 パーチェを見る。

 同じタイミングで俺を見た女医と目が合う。



〝お前は終わりだ。天瀬あませけい



 酷く冷たい瞳。

 あのときと全く同じ顔の上に、丁寧ていねいに丁寧に猫をかぶせ、魔女リセルは邪笑ほほえんだ。



動揺が透けて見えてい・・・・・・・・・・けれど。ケイ・アマセ君」

『!?』



 ……一同の視線が俺に集中する。

 魔女め……「契約けいやく」でのつながりで俺の動揺を察知しやがったな。

 どういうつもりでの発言なんだ。



「同感ですね。皆さんが責めるべきはきっとマリスタではない」

「――――」

「ちょ――ちょっと、ナタリーまで何言いだすのよ!」



 眉を吊り上げ、慌ててナタリーに近寄るマリスタ。

 ナタリーもマリスタに近寄るようにして――彼女を隣に、俺へと対峙たいじした。



「この男、どうやら襲撃事件に関して何かネタを握っているようですよ。マリスタだけはそれを明かされていたのでしょう。それを口走ってしまっただけです、マリスタは」

「な――ナタリーっ!」

「…………」



 ……ここぞとばかりに、こいつまで。

 マリスタに火の手が及びそうになった途端とたんにコレだ。

 友達想いなことだ、全く。

 その動きこそが、本当にマリスタを死の危険にさらすことになるとも知らずに。



〝王族に手を出した者が辿たどる道は知れている。祭りの期間中、常にお前たちの喉元のどもとには私の刃が当てられていることを忘れるな〟



 ……さて。



「……単刀直入にこう、アマセ。何か隠していることがあるのか」

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