遠近――――探す一瞬、しかし戦況は



 装填そうてん

 魔弾の砲手バレットの中に一発だけ光弾の砲手ライトバレットを混ぜ、バラバラの軌道きどうを描かせてナイセストへ放ちながら、



「万策尽きたか? 動きが先程と同じ――」



 ナイセストの身体を包むように、盾の砲手エスクドバレット展開てんかいする。



「!!! ハッ、障壁しょうへきおりに――――!」



 光弾の砲手ライトバレット



「――――チッ、」



 光弾こうだんが飛来する直前に、瞬転ラピド瞬転空アラピドの組み合わせでかみ一重ひとえ、自分を円筒えんとうじょうに奴を包んでいた物理障壁から脱するナイセスト。

 そのまま迫ったナイセストを瞬転ラピドかわし――――いかな闇の魔力まりょくで強化された身体能力といえど、瞬転ラピドによる一瞬の超速ちょうそくには付いてこれないようだ――――、距離きょりを取り続け、障壁と弾丸の組み合わせですきを狙い続ける。



 接近せっきんせんはこちらが圧倒的に不利。

 遠距離戦これが頼みのつなだ。



 だというのに、ナイセストはそれを――――全てかわし続けていく。



「……クソッ……!!」




◆     ◆




「…………地力の差だな」

「……どういうこと?」



 ロハザーがつぶやいた言葉を反芻はんすうするマリスタ。

 ファレンガスが疲労の色濃い小さなうなりを発し、目を閉じた。



「奴は頑張がんばった。たった二ヶ月でテインツを、ヴィエルナを、ビージを、俺を倒して、本物にけぇナイセストとまで戦って…………だけど急ぎすぎだ。いくらなんでも体に負担をかけすぎだ」

「わ、わかんないってば!」

「土台がもろけりゃ山はくずれる。アマセはこの二ヶ月、そりゃあプレジアの中じゃあぐんを抜いて成長したろう。だがその分、時間をかけて作っていない基礎きそりょくは圧倒的に不足してる。魔力まりょく、体力……持久力スタミナがもたねぇんだよ」

「……そんな。だってあいつは、ここまで十分戦って、」

「だからこそだよ。一日二日で疲労はとれねぇ。なのにあいつは、一日だって休まずに鍛錬たんれんして、常に誰かと戦い続けてたと聞いてる。バカが、体きたえんのは勉強で知識つけるのと同じじゃねぇんだぞ。ガリ勉ヤローが」

「…………」

「疲労がたまってる。その上、瞬転ラピド障壁しょうへきを使いまくりながら動きまくってやがる。――いつガタがきてもおかしくねぇ。肉も骨もスタミナも、精神も。何もかも限界なんだよ、あいつは。そのへんの差が、じわじわ出てきてるってことだ」

「っ……!」

「オイお前ら見ろ。終わったぞ」

『!!』



 ファレンガスの声が、マリスタとロハザーの視線をスペースにいざなう。



 スペースには――口元を押さえ、せき込む金髪の後ろ姿があった。



「……吐血とけつか。おしまいだな、本当に」

「ケイ……ケイっ、がんばれっ!! 時間だって、あともう少し――――――――、」



 食堂に映された記録石ディーチェの映像が切り替わると同時に。

 マリスタは、言葉を切って黙り込んだ。



「……?」

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