第60話 裏方の死闘

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「うはは、『無血完勝友情大作戦』だとよ」「なんだそのだっさい名前、ネーミングセンス無いにも程があんだろ」「でも金と手間はかかってるぜ、なんせアルクスのローブまで借り出してきてんだから」「これレプリカとかじゃないの? 本物?」「アルクスだぞー!!」「きゃーっ」「イベントに参加して来いよお前ら、せっかく抽選ちゅうせん当たったのにもったいないぞ」「このぷにぷにモンスターかわいーペットにしたいー!」「こいつも倒したらポイントもらえんのかな?」「倒すの申し訳ないくらい可愛いよね~」



「――――撃破数四十五、五十五、七十二、百十二! 順調に数を伸ばしています」

召喚数しょうかんすう撃破数げきはすう均衡きんこうは?」

「取れているようです。今後もこのペースで召喚しょうかんを続行してください」

「ふむ。ひとまず、イベントとしては成立しているようですね――――引き続き頼みますよ、エルジオ先生」

「はい。嬉しいですよ、赴任ふにんする前から――こんなにも大きな仕事を任せていただけるんですからねっ」



 整った顔立ちをした金髪の青年が、肩の高さに掲げた手に魔力を集中させる。

彼を中心とした巨大な魔法陣が赤く発光し、陣の周囲に補助的にもうけられた十数の魔法陣が、その中央に立つ魔法使いが連動し、陣の魔力を急激に高め――――



「うおっ!? また新手が来たぞッ」「アブねえっ?!」「魔弾の砲手バレットぉ!!」



――――このようにして、プレジア全体に無数のモンスター、召喚獣しょうかんじゅう達が呼び出されているのである。

召喚されているのは、年少クラス達の相手をする役目の全く無害なモンスター。そしてイベントの主なやられ役――――手腕部しゅわんぶからのみ発せられる魔法による衝撃波しょうげきはを主な攻撃手段とした、細身で人間より少し小さめなモンスターだ。

そしてこの召喚獣が繰り出すその衝撃で起こり得るすべての被害は、アルクスから支給されている藍色あいいろのローブに施されている防護魔法が完璧に防ぎきってしまう、という寸法すんぽうである。



これら無害な召喚獣の構築式こうちくしき、プレジアの特定区域にのみ召喚しょうかんする技術、及び個体数の把握はあく方法――――その他諸々もろもろの総合調整を一手に引き受け成し遂げているのが、大魔法祭だいまほうさい以後から召喚術しょうかんじゅつ担当教師としてプレジアに赴任ふにんする予定になっている彼――――金の長髪を持つマリスタの許嫁いいなずけ、サイファス・エルジオである。



 風紀委員室を借り切って作られた、作戦本部。

 イベントの裏で、彼らの「本当の計画」は、確実に遂行されつつあった。



「定時連絡集まりました! 今の所、どの転移魔法陣てんいまほうじん前にもターゲットの姿は無いとのことです」

「一般からの目撃情報もいまだありません!」

携帯けいたい転移てんい魔石ませきが使われた痕跡こんせきは?」

「今の所ありません!」

「ふむ……このプレジアに隠れられるところなどそうあるものではありません。携転石けいてんせきを使っていないのだとすれば、参加者による捜索そうさくであっという間にあぶり出せるはずですがね」

「アドリー先生っ! すみません、本部入り口に――――きゃあっ!!?」



 学祭がくさい実行委員じっこういいんのケイミーが突き飛ばされるようにして押し退けられる。

 現れたのは、口を一文字いちもんじに引き締めたガイツ・バルトビアだった。

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