3

 乱れ落ちる本と共に床に打ち付けられる。そう広くない廊下でのことに周囲の生徒が一斉にざわめいたのが分かった。

 息を吐き出して気息きそくを整え、俺を突き飛ばした者を見上げる。

 そこにはいつか同じアングルで見た、大柄おおがらな男と、細長い眼鏡の男がいた。どちらもベージュローブだ。

 大柄の方は……この間テインツと一緒にいた奴だな。



『よぉ、「異端いたん」。こないだは我々・・随分ずいぶんと無礼な真似してくれたじゃねぇか』

『すぐにわかったよ。君みたいな爪弾つまはじき者ってのは、どこにいても悪目立わるめだちするからね』



 二人の腕には、獲物を狩る熊が刺繍ししゅうされた腕章わんしょう

 ナイセスト・ティアルバー率いる、プレジア魔法魔術学校風紀委員会のメンバーである証だ。



 大方、先日のテインツの件のし返しだろう。なんて厄介な連中だ。



『おっと、そうだった。ビージ、そういえばこいつには分かりゃしないよ。僕たちの言葉は』

『あァ、そういやそうだったか。チッ……本来なら通訳魔法を使うべきはこいつなんだが。なんで俺達がこいつに配慮しなきゃいけねぇんだよ。糞野郎が、死ねよ』

『はは。言葉が過ぎるよ、ビージ。お前の悪い癖だ』

『聞こえてやしねぇよ。この馬鹿が、死ね! ハハハッ』



 俺を見て何かを笑いながら、指を赤く光らせる二人。その顔から、奴らが何を考えているかは容易よういに知れた。

 大柄が下卑げびた笑みを浮かべる。



「おい、聞こえてるかよ? まったく、世話のかかる異端だぜ』



「……異端いたんとは。同じ人間に対して、それはまた酷い呼び方だな」

「お前と我々を同じにするな、異端。そも生まれからして、我々とお前とでは世界をことにしているのだから」

「ッ!!?」



 ――――今なんと言った。



 動揺を隠しきれなかった俺を見た細身が、四角い眼鏡の奥でニヤニヤと笑う。

 大柄が俺の落とした本を拾い上げ、表紙を眺めた。



「暗殺技術、相手の裏をかく心理戦術、傭兵ようへいのいろは……おっと、爆薬と毒薬の調合までありやがる。随分陰気いんきな本を読んでんじゃねぇか、異端」

「……返してくれるか。どんな本を読もうと勝手だろう」



 心を落ち着かせ、それだけ言って本を拾い――――集めようとした本を、また腕からひったくられた。

 再び突き飛ばされ、固い床に顔をしたたか打ち付ける。



「ひでぇ本ばっかだ。検閲けんえつして正解だったな。まるで人殺しの計画でもあるみてぇじゃねぇか、えぇ?」

「――――!」

「ホントホント。君、素性は誰にも明かせないんだって? 一体どんな経緯いきさつがあれば素性を隠して生きなきゃいけなくなるんだか」



 ……何が起きてるんだ、今。目の前で。



 俺と魔女の計画は、あの場にいた俺達しか知り得ないはずだ。まさか、盗聴とうちょうか? 風紀こいつらならやりかねないか――――だが、これまでずっとプレジアで校医を続けられているリセルが、そう易々やすやすと盗聴を許すようなタマだろうか。

 だとしたら何だ。どうしてこいつらが復讐の話を。

 まさか魔女の奴が俺を売って――――



「……早計そうけいだ」

「あ?」



 それを結論付けるのは早過ぎる。

 こいつらの言葉に、確信的な情報は何もない。魔女が俺を売った可能性も十分考えられるが、それが全てではない。

 何者かの指示で、俺にカマをかけているだけの可能性もある。

 あの性悪な魔女のことだ、もしかするとこいつらをけしかけて俺を試している可能性も捨てきれない。

 こいつらの独断による単なる難癖なんくせの可能性も。



 今俺がやるべきは――とにかく情報を引き出すこと、そして状況の把握はあくに努めることだ。



「……俺は本を返せと言っただけなんだが。返せないなら返せないで、せめてまともに返答をしてくれるか」

「お前……!」

「君さぁ。貴族に向かってそういう態度がナメてるって言われてんの、いい加減解んないの? だから異端だっていうんだよ、お前はさぁ」

「既にはいされた制度なんだろう? どの歴史書を読んでもそう書いてある。だったら俺がお前たちに礼儀を示す必要は欠片かけらもありはしない。――めるのも大概たいがいにしろ。いい加減理解するべきはお前達だ」

「テメェッ――――大人しく聞いてやってりゃ調子に乗ってベラベラと!!」

「どこが大人しいんだよ狂犬共きょうけんども、言いがかりをつけてきたのはそっちだろう。証拠も無しに誰が殺人の計画だと? 風紀委員とは憶測や推量すいりょうで人を追い詰める仕事なのか。大層な活動内容だ、さぞ学内の風紀もりっされていることだろう」

「テメェエェェェエエェェエエェェ」

「ビージ、押さえて」



 骨ばった体をした長身がいきり立つ大柄を押さえ、鼻筋の眼鏡を持ち上げる。



「憶測憶測と無礼な奴だ。そも我々が憶測でしかものを語れないとしたら、それは十中八九お前のせいだぞ異端。素性を何も明かしてないんだからな。世界は物騒だからね。素性も解らない者をそのままにしておける訳が無いだろう。そして、」

「ほう? 今、憶測で人を追い詰めていることを認めたのか?」

「最後まで傾聴けいちょうしろ愚か者が。――そして、そうなると我々はお前の人間関係や周囲の者からの証言、一日の生活ぶりなどから、風紀委員会の名のもとにお前を厳正に調査するしかない」

「ハッキリ言ってやれよ。……異端ケイ・アマセ。風紀委員会は、貴様をこのプレジアに破滅的被害をもたらす不穏分子として、非常に危険視し始めている」

「だから、さっさと根拠を示してみろと言ってるんだ」



 吐き捨てる。眼鏡が顔を険しくした。



「秘密だらけの君にそんなことを言われる筋合いはないんだよ。とはいえ、お前が怪しいことに変わりはない。魔法を一切使えない無能力者。顔立ちから明らかにリシディア人ではない上、生まれも育ちも一切不明確。にもかかわらず義勇兵コース所属。人とは多く交わらず、自室にこもってはずっと一人で何かをやっている。更に――我々風紀委員の構成員であったテインツ・オーダーガードは、君の凍結魔法によって危うく死にかけた。魔力の暴発だと言っているが、殺人未遂であることに変わりはない」

「そのクセ、女への色目使いには抜け目がねぇ。交流もほとんどないくせに、マリスタ・アルテアスさんを含む多数の女生徒に気にされている……外道な野郎だ。何に利用して捨てるつもりか知らねぇが、テメェのそれ・・魅惑チャームの魔法なのは解りきってんだよ。魔法の力で女にチヤホヤされて嬉しいか? 勘違いクンよ」



 ……………………は?



「もしかして……そんなものが俺を危険視している理由なのか?」

「ほとんど事実じゃねぇか。おい、オメーら『平民』共も気を付けろよ!! どう使ってるかは分からんが下手に近付くと、魅惑チャームの魔法で奴隷オモチャにでもされかねんぜ!!」

「チャームというのはなんだ?」

「しらばっくれないでくれるかな。君が今まさに使っている魔法だろ? 白々しらじらしい」

「おっと、俺達にかけようとしても無駄だぜ。魅惑チャームは同性には効きれぇし、俺達は魅惑チャームを防ぐ防護魔法ぼうごまほうを自分に付与ふよしてる。残念だったな」

「…………………………」



 …………これが、トカゲの尻尾切りにあう政治犯の気分なのかもしれない。

 そして、これほどまでに理不尽に、難癖をつけて好き放題言えるほど、思い上がってしまうものなのか。権力を持った――この場合、そう勘違いしている――人間達というのは。



「ハッ! 図星過ぎて返す言葉もねぇって顔だな」

呆然ぼうぜんとしてるね、なんて解りやすい顔だ。でも、こんなもので済むと思わない方がいいよ、異端。近く我々は、君をこのプレジアから永久追放することになるだろうからね」

「すでに調査は始まってる。お前がプレジアにひそみ、中から学校そのものを破壊し乗っ取ろうとしているタチの悪い反政府組織レジスタンスの一員であることは分かってんだ。だが残念だったな。そうそうテメェらアホ共の思い通りにはならねぇんだよ。この学校に、我々風紀委員会がある限りな」

「…………………………」



 …………ダメだ。議論する気にもならない。



 つまりこいつらが今俺に対してやってることは、現実的な拘束力こうそくりょくや実行力を何ら持たない、憶測と偏見にまみれた誹謗中傷ひぼうちゅうしょうでしかない。

 おまえはわるいんだ、おれたちはいいやつなんだ、やーいやーい、ばーか。

 そう言ってるのと何も変わらない。こいつらは俺を悪者にしていい気分になりたいだけだ。

 今こいつらについて考えている、この一分一秒一言一句一文字一瞬、全て何もかもが無駄でしかない時間だ。

 こいつらが俺とリセルの関係、そして目的をつかんでいるかもしれないと、わずかでも動揺した俺が馬鹿の極みだった。



 反吐へどが出る。付き合ってられるか。



 得意げに続けている二人の言葉の一切をシャットアウトし、本を拾い集める。

 厄介なことに野次馬は最初から増加の一途をたどり、図書室の入口からパールゥの姿は見えなくなっている程。無用な心配をかけてないといいが。



 散らばった本を集め切り、よろよろと立ち上がる。

 やはりこの重さと手間は不便だ。

 今日だってもっと迅速じんそくに本を運べれば、こんな連中に絡まれることもなかったかもしれない。

 だが後悔も後だ、今は一刻も早くこの場を――



 本が三度みたび打ち払われる。



 崩れた山の先には、怒り顔を貼り付けた木偶デクぼう



「――――なんだ、その顔はよ。何なんだ、その態度はよォッ!!!!」

「おいおい。だから押さえてってばビー――――何してるの、君」



 ざわめきが広がる。

 知ったことか。



 三度かがみ、本を拾い集める。

 細身と大柄は立ち尽くし、俺が本を拾い集める様を眺めているようだった。

 とっとと消えてくれ。邪魔だよ。



「………………」



 本を抱える。

 打ち払われた。

 本を拾う。

 打ち払われた。

 本を拾う。

 掴まれ、遠くに投げられた。

 拾いに行き、戻り、本を拾――――――おうとした手を、本の上から踏みつけられた。



 うめきが口かられる。

 その一声ひとこえだけでも、そいつらから自分の時間に、存在に干渉を受けたことが、たまらなく無駄に思えて吐き気がした。



「……お前、マジで何なんだ」



 ああ、無駄だ。  ――拾う。

 無駄だ。      ――本を拾う。

 無駄だ。     ――打ち払われる。

 無駄だ。      ――本を拾う。

 無駄だ。     ――拾う。

 無駄だ。      ――疲労。

 無駄だ。     ――本を拾う。

 無駄だ。      ――ほんの疲労。



 嗚呼ああ、気持ちが悪い。



「……何なんだって聞いてンだろッ!!! 気持ちりぃんだよテメェッ!!!」



 頭をつかまれる。  ――力。



「何とか言えッッてンだよッ!!!!!!」

「ビージ!!」



 床に投げつけられる。大柄の声が響く。



 俺に力があれば。

 力さえあれば、こんな局面も難なく切り抜けられた。

 第一、こんなことにはならなかった。



「どういう態度なんだよそれは!! 俺達の存在を一切無視しようってのか!? いい度胸じゃねぇか、えぇ異端よぉッ!!! やっぱりお前にはしつけが必要だ!! 圧倒的存在による圧倒的力を以てする圧倒的誅罰ちゅうばつがよッ!!! もう構わねぇ、俺が今ここで制裁してやるッ、この薄気味うすきみりぃ人外じんがい野郎がァッ!!!」

「ちょ、それはマズいよビージ! ビージ!!!」



 力が欲しい。

 こいつを威圧だけでひねり潰せるような力が。

 一撃で魔女を屈服させられる力が。

 一発でトルトを瞠目どうもくさせられる力が。

 一閃いっせんで学校を破壊し尽くせる力が。

 一歩で世界を横断できる力が。

 一目で世界を見通せる力が。

 一飲みで海を枯渇させる力が。

 一喝いっかつで大空を斬り裂く力が。

 一踏みで大地を崩壊させる力が。

 一握りで星を掴み取る力が。

 一睨みで宇宙を隷属れいぞくさせるような力が。

 


 力が。力が。力が――――――――――――。



「何を――――――やってんのよ、風紀委員どもッ!!!!!!!」

『!!』



 俺の目の前で、汚れ一つない真っ赤なローブがひるがえる。



 見上げた先には、赤毛を頂いた小さな肩の少女。



「マ――マリスタ!?」

「アルテアスさん……!?」

「アルテアス!? あ、あんた……何やってんだよ」

「それはこっちのセリフよ!! あなた達、テインツ君の友達の風紀委員の人よね? 寄ってたかって一人相手に何してんの?」

「よせマリスタ」

「な……何してんのはこっちのセリフだぜ、アルテアスさんよ! あんた、自分が今何やってんのか分かってんのかよ! そいつはな、アンタみたいな身分の大貴族が助けるべき人間じゃ――――」

「助けるべきじゃない人間なんていないッッッ!!!」



 激昂げきこうしたマリスタの怒声が図書室前の廊下を制圧する。

 あまりにも正しく響き渡ったその言葉に、図書室前にいた全ての人の中で明らかに善人と悪人が入れ替わったのだろう。大柄は目に見えて狼狽ろうばいしだし、恐らく怒りに体を震わせてマリスタをにらんだ。



「ふ――ふざけないでくれよアルテアス! アンタは大貴族だ、ティアルバー家に並ぶ力を持ってるんだ! だからこそ、あんたが貴族として模範もはんを示さねぇでどうすんだよ!? あんたはこっち側の人間だろ!!」

「うっさいわね!!! 聞こえなかったみたいだから何遍なんべんでも何万遍なんまんべんでも言ってあげるわ――人間にこっち側もどっち側もないのよ大馬鹿男ッ!!! 私はどんな人でも助けるし、どんな理由があろうと誰かをイジめる人は許さないッ!! あんたは貴族かもしれないけど、人としてはクソ以下よ! 恥を知りなさい!!」

「な――――なぁァ……――――ァルテアスゥゥゥッッ!!!」

「マリスタ、やめろ!!!」

「うっさいケイ、ちょっと黙ってて!! システィ! パールゥ! ケイをお願い!」

「わかったわ」

「アマセ君っ、大丈夫!?」



 人込みから現れたシスティーナとパールゥが駆け寄ってくる。

 俺はそれを振り払い、猛然もうぜんと大柄に歩み寄っていくマリスタを追う。



 馬鹿。

 お前が、そんな奴のために時間を割くことはない。

 これは俺の問題なんだ。俺のために起こる由無よしなごとに、お前が手をわずらわされる必要はない。



「マリスタ――――」



 お前は、俺に関係しなくていい。

 俺のために動かなくていい。



「マリスタ――――!」



 シャノリアも、トルトも、システィーナも、パールゥも、リセルも。



〝ありがとう、けいにーちゃん〟



 お前たちは――――



〝うん。いいんだよ。任せて、メイ。母さん〟



 お前達は、俺の中に居なくていい――――!!



「そうだ!! ぶちのめしてやってくれ、アルテアスさん!!」

『!?』



 聞き覚えのない声が渦中かちゅうに飛ぶ。

 見ると、そこにはやはり見覚えのないグリーンローブの生徒。風紀委員の腕章わんしょうを付けてはいない。

 少年は恐れに引きつった顔で体を震わせ、大柄の風紀委員をにらみ付けている。



「い……いい加減ウンザリなんだ!! お前達貴族だったやつら・・・・・・なんかに、いつまでも押し付けられるようにして生きるのはさ!! 貴族制度はもうない。今もその制度に俺達を当てはめてるのは、お前らお高くとまったボンボン共だけだろ! そんなものに縛られるために俺は――――俺たちはプレジアに来たわけじゃないんだ!! アルテアスさん、頼む! そいつらこそ、この学校から・・・・・・追放してくれ・・・・・・!!」

「ちょ――ちょ、っと待って! そんなことがしたくて私は止めに入ったんじゃ」

「オイオイ、ふざけてんじゃねぇぞ『平民』共ッ!!!」



 大柄が大声を張り上げ、発言した少年に怒号どごうを吐き散らす。



「テメェら、誰のおかげでこの学校が出来たと思ってやがる!! それも考慮出来ねぇ貧相な頭しか持ってねェくせして、我々の前でいっぱしの口利いてんじゃねぇッ!!!」

「だ――だ、黙れッ! 俺は言うぞ、俺は――――俺はもうお前たちの特権を認めないッ! 何が風紀委員だ、貴族クラブの末端会員のくせに!」

「ンだとコラァッ!! てめぇどの家の出だ、名乗りやがれッ!!」

「セイカード家のケイミーよ!!」



 群衆から、黒い肌を持つ一人の少女が歩み出る。その目は目の前の大柄の男に怯えながらも、決然とした輝きを放っていた。

 よくよく見てみれば、ただの野次馬だった群衆の一人一人の目の色が、先程までと明らかに変わってきている。ある者は悲壮ひそう、ある者は憤怒ふんど。ある者は羨望せんぼう、ある者は敵意てきい、ある者は殺意さつい――――およそ外野がいやでは在り得ない感情をたたえ、その視線を二人の風紀委員に向けている。

 怒声をまき散らす大柄に対し、細身はまるで災害に巻き込まれた被害者のような顔で辺りを見回している。自分が今、どういう状況に置かれているのか解っていない様子――――つい一瞬前までの俺と同じ目だ。



「彼の言う通りよ! 傲慢ごうまんも大概にしなさい、貴族共!! 私たちはあなた達の奴隷どれいではない! 過去どんなことがあろうと、私達は私達。貴族と『平民』の別なんて、私達には関係ないわ!!」

「そうだそうだ!!」「引っ込め厚顔こうがん野郎共!」「俺達の自由を返せ!!」「もう貴族制度は終わったんだ!!」

烏合うごうの衆の分際で――――身の程をわきまえないか『平民』ッ!!!」



 更に別の場所から、また知らない声。居丈高に飛び込んできたその声は、恐らく貴族のもの。歩み出たグレーローブの少年は右腕の腕章をあかりに光らせ、青筋を立てて『平民』を怒鳴りつけていく。



「貴族制度の終わりとは、このリシディアが相対的そうたいてき地位にもとづく王政おうせいから、リシディア家を至上の王族とした絶対王政ぜったいおうせいへと変化したことを意味するだけだ! それは貴族の隆盛りゅうせいによって、国の在り方が過渡期かときを迎えたと読めこそすれ、貴族の衰退すいたいを意味するものでは断じてない!! それを勝手に貴族の凋落ちょうらくだ『平民』の解放だとわめきたて、世情せじょう有耶無耶うやむやにしているのは貴様らではないか!! どちらが恥晒しだ能無し共が!!」

「あの野郎やろォッ!!」「能無しはお前達だ弱小貴族がッ!!」「キゾクゴッコはヨソでやれ!!!」「無礼が過ぎるぞ『平民』共ッ!!」「一族郎党いちぞくろうとうに至るまで根絶やしにしてやろうか!!」「やってみなさいよゴミクズ共!!」「きゃぁっ!!」「オイやべーぞ!! 風紀委員呼んで来いって!!!」「こ、この場合風紀じゃなくて先生じゃ……?」「どっちでもいいんだよ!! 早く行かねーとマジでけが人出るぞ!!」「もう勘弁ならねぇ!! やっちまえアルテアスさん!!」「ちょ、何言ってんのよあんたたち!! みんなおかしいって!!!」「ふざけるなよアルテアス!!」「テメェはどっちの味方だ!!」「『平民』共にくみしてみろ、次に没落ぼつらくする大貴族はあんたたちになるぞ!!」「アルテアスさん!!」「アルテアス!!」「な――――何? 何がどうなってんの、どうしちゃったのよみんなっ!!!」

「そもそもだっ、貴族共ッ!!!」



 『平民』の一人が通る声で騒ぎをつらぬき、歩み出て――――座り込んだ俺を指さし、かたきでも見るかのように睨み付けてきた。よく見ると、その男子は自己紹介の時に最前列右端に座っていたレッドローブだ。



「こんな素性も知れない奴と一緒にするなよ。こいつが『平民』だって? 冗談も休みやすみ言えよ!! こんな奴と同等に思われるなんて、貴族じゃない俺らだってゴメンだよ!」

「ちょ――アトロ、何言ってるのあんた!!!? ケイはクラスメイ――――」



 いかずちが血管のように二人の間を伝う。



『!!?』

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